Ep.6-4
シャールとエリシアは、レイチェルを食堂室に通して、紅茶と簡単な茶菓子を用意してから、エリシアがここに滞在してから起きたことについて語った。特に、数日前に起きたディーテ村の件、その中でのエリオスの振る舞いについて。
レイチェルは時折紅茶に口を運びながらも、ずっと黙って二人の話に耳を傾けていた。そして、ディーテ村での出来事の顛末を二人が語り終わると、ほうと息を吐いた。
「——エリオス・カルヴェリウスは、ずいぶんとあのアリアという少女を大事に思っているようですね。その執着ぶりは単なる契約による主従関係とは違うもののよう……」
「忠誠とも、崇拝とも、偏愛とも——どれとも言えるだろうし、それでいてどれでもないような……不思議な関係だよね」
エリシアとレイチェルはそんなことを言いながら腕を組む。レイチェルは少し考え込みながら、紅茶を一口啜ると、相好を崩してシャールに微笑みかける。
「それにしても、シャール。貴女は随分と成長されているようですね。盗賊や異端者たちを相手にしっかりと戦えて……つい最近までまともに剣を握ったことのなかった者の戦いぶりとは思えません」
「い、いえ! そんな……私なんてまだまだで……聖剣の権能だってまだ万全には……魔王との戦いでも、皆さんの足を引っ張るんじゃないかって心配で……」
レイチェルの褒め言葉に恐縮しながら、シャールは自虐的に苦笑して目線を落とした。
確かにある程度自分でも戦えるようになってきたとは思う。しかし、今までシャールが戦ってきたのはどこまでいってもただの人間たちだ。
レブランクの兵士たちも、ザロアスタ卿も、盗賊たちも、異端の教徒たちも。皆魔術を使うわけでも、怪物的な異常の身体能力を持つわけでも、聖剣の権能を操るわけでもない。
しかも、そのうちのザロアスタ卿とはほとんど圧倒されっぱなしで、レブランクの兵士たちも結局生き残りはしたけれど負けていた。異端の教徒たちも時間を稼ぐのが精一杯で、盗賊たちはエリシアと協力したからなんとか倒せたという程度のものだ。
確かに成長はしているのだろうけれど、どこまで行っても絶対的に技量や能力が足りていない。
レイチェルにも、ザロアスタにも、エリシアにも、かつてのルカントにも……そして当然エリオスにも。今のシャールの力量は遥かに劣っている。
それを自覚しているが故に、シャールは引け目を感じているし、それが原因で魔王との戦いに敗北を喫してしまったらと恐れてもいる。
そんな不安に満ちた表情のシャールに、レイチェルは苦笑を漏らす。
「確かに貴女はまだまだ未熟です。でも、だとしても我々には貴女の力が必要なのです——それに、例え貴女が足を引っ張ることがあったとしても、私たちはその足で貴女を前へと引きずり出して一緒に進んでみせますとも」
そう言ってレイチェルは冗談めかしたように、茶目っけを帯びた瞳を煌めかせながら笑った。
その横で頷くエリシアの顔と彼女の瞳に、募っていた不安が、手のひらに落ちた雪のように解けていくのを感じる。
そんな時だった。屋敷の外から、跳ね橋が降りる音が聞こえた——屋敷の主人が帰ってきたのだと三人とも直感した。




