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Ep.6-1

休止期間明けました!

本日より連載再開させていただきます。

休止中もお読みいただいた方がいたようで、ありがたい限りです

夜の風が窓を叩く音が少しだけうるさくて、シャールはベッドからゆっくりと起き上がり目を擦る。

厚手のカーテンの隙間から漏れ入る淡い月の光。シャールはカーテンに手をかけ、そっと開いて窓の外の空を見上げる。

大河に身を任せた枯葉のように、大小様々な紺色の雲が夜空を流れていく。その中でも静かに、それでいて煌々と輝く月の光にシャールは小さく息を漏らした。

雲の流れる様を見て、シャールはふと夜風に当たりたくなって、窓を開けてバルコニーへと素足で踏み出す。

レースのネグリジェを風に揺らしながら、シャールはどこか踊るようなふわりふわりとした足取りでバルコニーを歩く。

どこか現実感のない、夢の中にいるような感覚だったけれど、バルコニーの黒い鉄の手すりにそっと触れた瞬間、そこから伝わる冷たい感触がシャールに現実感をもたらしてくれた。


「……もうすぐ……なんだよね」


鉄の冷感がもたらした現実感は、シャールの目の前に迫っていたソレを彼女に思い起こさせた。

魔王討伐、そしてそのための暗黒大陸への遠征——それに加わるためにこの屋敷を出る日まで、あと二日。

一日が経つにつれ、一刻が過ぎ去るにつれ重みを持って肥大化していく現実感に、正直シャールは浮き足立っていた。

ただの村娘でしかなかった自分が、かつて勇者として国を代表して旅立ったルカント王子が為そうとしていた大事業に参画することになる。それはとても得難い機会で、自分の人生に一つの意味を与えてくれる契機でもあるのだと思う。

それはシャールに一種の高揚と、その一方で強い恐怖を与えていた。

上手くいかなかったらどうしようか、自分はルカントの名を穢すような失態を犯さないだろうか。そんな不安もまた、日増しに募っていく。


「はぁ……」


魔王討伐に参加することが嫌な訳ではないし、アメルタートを持っていることが重荷や苦痛になっている訳ではない。

だが、今回の戦いはシャールにとってのある種の試金石なのだ。自分はルカントの意思を継ぎアメルタートを背負うに足る存在であれるのか、そして今後彼に——エリオス・カルヴェリウスに一矢報いることができる人間なのか。自分という存在の価値を嫌が応にもつきつけられる機会、それがこの魔王討伐なのだ。

それはある種試験開始の直前のような心持ちだ。ささやかな期待とそれ以上の不安とが混ざり合った何とも落ち着かない感情が、風船のように膨れ上がり胸の内側から身体全体を圧迫しているような感覚、今にも浮かび上がり所在なく風に流されてしまいそうな感覚。

今のシャールはまさしくそんな感情の渦の中にいた。

一度そんな感覚を思い出して仕舞えば、そのまま眠りにつくのはもはや不可能だ。

出来ることならば何かでこの感覚を誤魔化して、眠ってしまいたい。明日は朝からエリシアと訓練なのだ。

こんな感情のまま朝まで目覚めたままでいては、訓練に身など入るわけがない。


「あれ……」


そんな時、風に乗って微かな音が響いてきた。シャールは音のした方へと視線を向ける。屋敷の外、堀にかかった跳ね橋が降りている。シャールは、黒い外套を着た人影が屋敷から橋を渡って出てくるのを見た。

エリオスだった。

その姿を見た途端、シャールは踵を返すと椅子に引っ掛けてあったカーディガンを掴んで走り出した。

暗黒大陸・魔王討伐編これより開幕です。

今後ともぜひ、拙作にお付き合いいただきたく存じます

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