Intld.IV-xxi
夜が明けるかどうかと言う薄暮の時間。シャールを先に帰らせたエリオスは焼け落ちた彼女の家の中でぼんやりと佇んでいた。
遠くから太陽が姿を現し、その光が網膜を刺した瞬間にエリオスの全身はぐらりとその場に崩れ落ちる。
「……何で、なんだろう……」
エリオスは荒れた息を漏らしながら、灰に塗れた手で目元を押さえる。
「なんで……私は……彼女にあんなことを……?」
エリオスはつい先ほど自分がシャールに口にした言葉に困惑していた。
合理的に考えれば、あんなことを彼女に言う必要はなかったのだ。彼女はいつか敵対する身、いずれどこかでアリアとの契約の完遂の障害となるかもしれない存在だ。だって彼女は聖剣使いなのだ——だというのに何故?
「私は彼女を侮っている……? いや、確かに今の彼女はまだ私の脅威にはなり得ない……だが、彼女は急速に強くなってる……なら、ここで心を折り砕いておくのが上策だったんじゃ……」
エリオスはうわごとのように呟く。
いくら思考を巡らせても、自分の行動を合理的に説明できない。何故あのとき自分はシャールの心を殺すように努めなかったのか、何故彼女に前を向かせてしまったのか。
そんなとき、エリオスはふいに一つの可能性に思い至る。それでも、エリオスはそれを認めたくなくて唇を震わせる。
「……そんな、こと……私に限って……」
「あら、今のアンタなら割と有り得そうだけどね」
「——ッ!」
不意に背後から響いた声に、エリオスは全身を震わせながら振り返る。アリアだった。
彼女は青い髪を朝日の光に煌めかせながら、エリオスをじっと見つめている。
「君……いつから……」
「ふふ、あの娘も意図的かどうかは知らないけどこの場所を選んでアンタと話をしようだなんて、なかなか悪い娘よね」
「——最初からってワケ」
エリオスはため息をつきながら、ゆらりと立ち上がると彼女の前に跪いた。
「ごめん……あの光景を彼女に見せちゃった」
「そう、みたいね。全く、勝手なことをしてくれるわ」
「……君の望むままに罰は受けるよ」
エリオスが低い声でそう言うと、アリアはくすりと笑う。
「エリオス。顔を上げなさい」
「——ぇ?」
「せいっ」
次の瞬間、アリアの細い脚から繰り出される回し蹴りがエリオスの顔面に叩き込まれた。
「が——!?」
エリオスは短い悲鳴をあげると、ごろごろと灰まみれの床を転がり悶える。
「うん。やっぱり蹴りを入れるなら素足より革の靴よね」
「うわぁ……ひどいデジャヴ……」
エリオスは顔についた灰や泥を拭い、ふらふらと立ち上がりながらそう零した。そんな彼をアリアはにんまりと見つめる。
「私の痴態をシャールに見せた罪はこれで清算ってことにしてあげるわ。何より、アンタのらしくもない懊悩する顔が見れてもうとっくに溜飲は下がってるの」
「あっそ……」
エリオスは蹴られた右頬をさすりながら、唇を尖らせる。そんな彼にアリアはくすりと笑った。
一応次のパートで今回のインタールードは終了する予定です。
それと同時に、以前予告いたしましたとおり一週間ほど連載をお休みさせていただく予定ですので、何卒ご了承のうえ、今後とも拙作にお付き合いいただきたく存じます。




