Intld-I-iv
埋葬を終えたシャールは沈鬱とした表情を隠すこともできないままに、館の中へ戻った。
館の中は静まりかえっていた。これだけ大きな館なのに使用人の類は見られない。もしや住人は、エリオスとあのアリアという少女の2人だけなのだろうか。
そんなことを考えながらシャールは、いつのまにか広間に戻っていた。仲間たちの遺骸は片付けたが、あと一つ残っているものがある。それは、彼女たちがここに来る前に、ベルカ公国から遣わされた兵士たちの首のない遺体——それが肉団子のように固められたモノ。
10人以上の兵士たちの肉体を押し固めたソレはシャールの身長よりも遥かに大きくて、とてもシャール一人では始末しきれる代物ではなかった。
それでもシャールは彼らも弔いたかった。こんな姿にされてしまった彼らにも救いが与えられてほしいと思った。
「———ッ」
息を呑み、肉塊へと手を伸ばそうとするシャール。そんな時、背後からカツンと音がした。
「ソレはいいわよ」
「———え」
声がした。こんな黒々とした館にはそぐわないような、玲瓏として高貴な声。
その声にシャールは弾かれたように振り向く。その視線の先では青白い髪が揺らめく炎のように揺れていた。
「ソレはいいって言ったの。エリオスにやらせるから」
「えっと——あなたは」
「アリア」
シャールの問いに短く答えて、青い髪の少女、アリアは視線をシャールの肩越しに肉塊へと向ける。
「あのバカ、『悪役っぽいでしょ?』とか言ってわざわざこんなもの作って——腐臭が酷いったらないわ。しかも床汚れたし、私たち2人の城なのに———ああ、腹立つ!」
「えっと」
「と、言うわけでお灸を据える意味も兼ねてコレの始末はアイツにさせるから放っといていいわ。ちょっとは反省すればいいのよ」
「あの———!」
捲し立てるように愚痴をこぼすアリアの言葉を遮るように、シャールは思わず大きな声を上げる。そんな彼女の声に、アリアはびくんと肩を振るわせたかと思うと、眉根を寄せながら「なに?」とシャールに問いかける。
「あの、あなたは一体……」
「は? 名乗ったじゃない。聞いてなかったの?」
「いや、あの、そうじゃなくて……」
「彼女は君が何者なのか聞きたいんだよ、アリア」
広間の入り口の方から声が響く。エリオスが立っていた。彼はかつかつと黒檀の床を踏み鳴らしながらシャールとアリアの方へと近づいてくる。
握った拳に自然と力が入る。そんなシャールに、苦笑とも嘲笑ともつかない緩い笑みを零しながらエリオスは言葉を続ける。
「考えてみれば不自然だろう? こんな残虐非道、悪鬼羅刹な最強最悪の魔術師の館に見た目だけは幼く可憐な少女がいるなんてさ」
「自分で言うのね———っていうか今『見た目だけは』って言った?」
子犬のように唸って、ぽかぽかと自分の背中を叩くアリアをまあまあと宥めながら、エリオスはちらとシャールに視線を投げた。
そんな彼に、シャールは改めてアリアに、そしてエリオスに問いかける。
「あなたは、あなたたちは何者なんですか———」




