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Intld.IV-xviii

「——ぁ」


シャールが目を開けると、そこは焼け落ちた彼女の家の中。そして目の前には自分で作り出した黒い椅子に深くもたれかかるエリオスがいた。


「え、エリオス……」


「ひどい顔だな。ハンカチでも貸してあげようか?」


皮肉っぽい笑みを浮かべてエリオスはそう言った。シャールが自分の顔に触れてみると涙や唾液で顔がぐちゃぐちゃになっているのが分かった。シャールは慌てて懐からハンカチを取り出すと顔をごしごしと、色々なものをこそぎ落とすように拭う。


「――あれは、本当に……」


顔が真っ赤になるほどに強く乱暴に拭いたシャールは唇を震わせながら、エリオスに問いかける。そんな彼女の問いをエリオスは首肯する。


「アレは最初に私がアリアの下へとたどり着いたときに『暴食』で喰らった教徒の一人の記憶だ。君にはその一部をそのまま流し込んだ。どうだい、アリアをその手でずたずたにした感想は?」


「――ッ! 最低の気分でしたよ……」


「そうかい。それは何よりだ――最も君にとっては苦痛となるような罰だったと自負している」


エリオスは自嘲的に笑いながら、目を細めた。そんな彼をシャールは睨みつけながら、それでいてどこか寂しげな表情で問いかける。


「貴方は……私を許すつもりは無い……そういうことと理解していいんでしょうか」


「ん? ああ、君はあれが本当に罰だと思っていたんだ。ふふ、ロマンチストなんだね君は」


「え?」


エリオスの言葉に思わずシャールは疑問の声を上げる。そんな彼女にエリオスは言葉を続ける。


「あんなのが罰なものか。だいたい、私に君を罰する理由なんてない」


「だって、私のせいでアリアさんを助けるのが遅れて……彼女は苦痛を……」


消え入るような声で為された彼女の主張を、エリオスはぴしゃりと一蹴する。


「馬鹿にしないで。確かに君の主張を受け容れた結果アリアの救出が些か遅れた。でも、君の主張を受け容れることを決めたのは他ならぬ私だ」


エリオスはそう言いながら腕を組む。その姿は厳然としているようで、よく見ると身体の端々や唇が震えている。そんな彼の反応にシャールは思わず息を呑んだ。そんな彼女に視線を合わせることなく、エリオスは続ける。


「——私は自分の責任を、他人に転嫁して剰えそれを『罰』だなどと言って責任逃れするような無様は晒したくない——ちょうどここの村人どものようにね」


エリオスは苦々しくそう言い放ち、燃え尽きた家の中をぐるりと見渡した。そして、ようやくシャールに視線を合わせると、少し深めのため息を吐く。


「さっき君にあの記憶を追体験させたのだって、彼女を苛んだモノを簡単な言葉でまとめた君への意趣返し……いや、嫌がらせに過ぎない。彼女がどんな目にあったのか、君には詳しく知らせて苦しめたかっただけ。罰だなんて御大層なものじゃあないのさ」


そう言ってエリオスはひどく皮肉っぽい笑みで、自嘲に満ちた刺々しい声でそう言った。

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