Intld.IV-xiv
「最高巫司が……自ら?」
ザロアスタの言葉にエリオスとシャールは思わず動揺する。エリシアはその事を事前に知っていたのか、特に驚くでも無く頬杖をつきながら、驚く彼らに笑いかける。
「ユーラリア……当代の最高巫司は中々に積極的な性格だからね。穏やかな見た目をしてなかなかの辣腕ぷりだ。そして何より思い切りが恐ろしいほどにいいんだ」
「——ああ、それは……なるほど」
シャールはふと、以前にエリシアが話していた最高巫司の人物像を思い出す。聖教国の宝物庫に忍び込んだエリシアを即決即断でヴァイストに選ばれた勇者として定めてみたり、ザロアスタや彼の配下の騎士たちを不都合だからと眠らせ記憶を操作したり。
倫理観の限界スレスレさえもいくようなその振る舞いは、確かにそのまま戦い出しそうなイメージを与える。
「——神殿のお飾り人形が出てきて意味があるのかい? 目立ちたいだけなら、引っ込んでいた方が身のためだと思うのだけど」
エリオスが口の端に皮肉っぽい笑みを浮かべる。そんな彼の言葉に、エリシアとザロアスタは表情を見合わせて笑い出す。
「はははははは! 確かにあの方がお飾り人形ならば、我らも身命を賭してお諌めして止めると言うものだが……なぁ?」
「エリオスくん、確かに彼女は聖教会の最高権威たる存在だけど、それと同時に聖剣に選ばれた勇者の一人で、しかも高位の魔術師でもあるんだ。君ほどでは無いかも知れないけれど、十分な戦力になる」
エリシアの言葉に、エリオスは僅かに表情を曇らせ、机に膝をつきながら目の前で手を合わせて尖塔のポーズをとる。
「そう……魔術師、か……」
「エリオス?」
エリシアの言葉に、妙に深く考え込むエリオスの姿に、シャールは何か不審なものを感じて眉根を顰める。そんな彼女の視線を感じると、エリオスはすぐにかぶりを振って、ザロアスタの方へと向き直る。
「うん、まあとりあえず理解した。聖剣の件、そして最高巫司の件。ともにね」
そう言って微笑んだエリオスの顔を見て、ザロアスタは満足げに頷く。そしてゆらりと立ち上がると、エリシア、シャール、エリオスの順にその顔をよく確かめるように見つめ、そして告げる。
「貴殿らには、まず今日より十日後に聖教国大神殿へと参じてもらいたい。そこで、最高巫司猊下ならびにレイチェル殿たちと面会していただき、作戦についての打ち合わせ。その後、出兵式典を行う運びとなる。そこで士気を高めてから一気に暗黒大陸へと侵攻するのだ」
「十日後……」
具体的な数字が出てきたことで、急に現実感が高まってくる。シャールは胸元に手を当てて、きゅっと唇を噛んだ。
そんなシャールを横目に、エリオスはザロアスタに向けて指を突き出す。
「一つ、条件を付けさせて欲しい」
「何かな?」
「魔王の討伐に際して、私は我が主人であるアリアを屋敷に置いていくことになる。もちろん、私の屋敷の警備は万全だけれど、やはり不安がないわけでは無い。だから、何人かでいい。聖教国の兵士たちを私の屋敷の護衛に派遣して欲しい。私が聖教国に向かうのと交換になるような形でね」
そう言った彼の顔はどこか苦々しかった。
そんな彼の言葉に、エリシアはわずかに表情を歪める。きっと、アリアが教団に攫われたのが効いているのだろう。その反省と後悔が、彼に聖教会を頼るという苦渋とも言える選択をさせたのだろう。
ザロアスタは小さく鼻を鳴らしてから、彼の願いを了承し、教義聖典官からそのための騎士をエリオスの館に派遣することを約束した。
「では、諸君。十日後にまた会おう!」
ザロアスタはそう言って、意気揚々と村を後にする。そんな彼の姿を見送りながら、シャールは色々なことを考えていた。魔王のこと、聖剣のこと、最高巫司のこと。そしてもう一つ、彼女の心の中にずっと蟠っていたコトを。
【予告】
現在のインタールードが終わると、暗黒大陸編へと移行する予定なのですが、その間に一週間ほどお休みをいただくことになるかと思います。
理由としましては、対魔王編以降から拙作が序破急でいうところの破と急の間に入ってくることになりますので、そのためのプロット編成などを少し念入りに準備させていただき、クオリティを上げていきたいと考えているためです。
正確な期間、休止をするか否かにつきましては、本インタールード終了(もう少し先)までに決定の上、後書きまたは活動報告、Twitter等にてお伝えさせていただきます。
よろしくお願いいたします。




