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Intld.IV-xii

エリオスとアリアはそれから少しの間言葉を交わしていた。エリオスは時折不機嫌そうになったり、感情的になったりしていた。それでも、アリアは真っ直ぐに折れることなく言葉を続けて、エリオスに対抗した。そして……


「——はあ……もういいよ。分かった、正直君が戦うなんてどんな形でだって嫌だけれど……」


「別に、アンタを信用していないとか任せられないとかそういう意味じゃないのよ?」


「分かっているよ。私たちの真に倒すべき敵は強大だ。策はあるけれど、縋れるものならばなんだって縋りたいのが本当のトコロだからね——とはいえ、君がそれを思い付いたきっかけはとてもとても不愉快だけど」


エリオスはそう言って唇を尖らせる。そんなエリオスの子供っぽい表情に苦笑を漏らしながら、アリアは言う。


「私だって不本意よ? でも、あの教主……名前も知らないあの男は確かに魔術師として、教会の学者としては優秀ね。救世主なんて分不相応な夢を抱かなければ大成したかもしれないのに」


そう言ってくすくすと笑うアリアに、エリオスは顰めた表情を緩める。そして、ぱんと手を叩くとゆらりと立ち上がる。


「私は君を戦いの場になんて出したくないけれど、私は君の従僕で君は私のご主人様だ。君が望むのならば私には不本意でも応える義務がある……ここまで議論してもその望みを変えられないのならね。そうだとして、私は今後君のために何をすればいい?」


「そうね……アンタのこれまでの研究の記録と研究室を貸してほしいところね……いける?」


「構わないさ。そろそろ——私も屋敷を空けることになっていただろうからね」


その答えにきょとんとした表情を浮かべるアリアに、エリオスはくすりと笑う。


「もう少し寝ているかい?」


「そう、ね。少し疲れちゃった……もう一眠り、させてもらうわ……」


エリオスの言葉に、アリアは少しとろんとした目で答えた。放っておけば瞼がくっついたまま眠りに落ちそうだ。


「それがいい。明日にはこの村を出るから、その時まではどうかゆっくりと」


エリオスはそう言って、アリアの瞼に手を当てて目を閉じさせる。すると、すぐに彼女は静かな寝息を立て始める。エリオスはそんな彼女の顔をどこか愛おしげに見つめてから、ぱたんという小さなドアの音だけを残して部屋を後にする。

エリオスはゆっくりと廊下を歩いていく。家の中は既に寝静まっているようで、物音がほとんどせず真っ暗だった。そんな中、エリオスは不意に立ち止まる。彼の視線の先には、ひとつだけドアの隙間から明かりの漏れ出る部屋があった。

エリオスはドアノブに手をかけると音を立てないようにゆっくりとドアを開ける。部屋の中には食卓用のテーブルがあり、それを囲むように三人の人物が座っている。


「——やあ、エリオスくん。どうだったアリアちゃんの様子は?」


「疲れているようでね。少しだけ話をして、また寝てしまったよ」


部屋に入ったエリオスに、椅子に腰掛けたエリシアがそう問いかけた。エリオスは眉の端をぴくりと動かしながらも、淡々と応える。

そんな彼の答えに、シャールは少し表情を曇らせながら伏し目がちにエリオスを見ていた。エリオスはそんな彼女には一瞥もくれることなく、自分の正面の席に鎮座している人物に視線を向ける。


「片付けは終わったのかな? ザロアスタ卿」


「は、もちろんだとも、エリオス・カルヴェリウス。既に我が部下たちが盗賊たちはマルボルジェへと、教徒どもは聖教国へと連行したところだ。今後、盗賊たちはレブランク復興のために遣わされた聖教国特使団の下で裁かれ、教徒たちは帰参した我輩と異端審問局によって処分が下される」


「そう。それは結構なことだね——それで、こんな夜分に雁首揃えて集まる理由はなんだい? 私もそろそろ眠いのだけれど」


エリオスはぞんざいな態度でそう言った。ザロアスタは一瞬驚いたような表情を浮かべたが、すぐにくつくつと喉の奥で笑い出した。


「なに、単に貴殿らに最高巫司猊下からの伝言を伝えにな。ただ、我輩が教徒どもの裁判に出席する都合、夜明け前にはこの村を出るので、こんな時間に集まってもらったのだ。悪いが眠い目は擦って無理やりにでも開けておいてくれい」


そんな風に言いながらニカッと笑ったザロアスタに、エリオスはそれ以上何かを言うことはなく、大人しく空いている席に着いた。

それを見届けると、ザロアスタは軽く咳払いをして、懐から信書を取り出してみせる。


「——魔王討伐、その準備完了の目処が立った。最高巫司猊下は、従軍予定の者は準備を整えよとの思し召しだ」

実は前回が400部分目でした

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