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Intld.IV-xi

白いレースのカーテンが月の光を帯びながら、暗い部屋でふわりと揺れる。吹き込む風が頬を撫でる感触にアリアはふと目を覚ました。


「——おや、起こしてしまったかな」


貼り付いた目蓋を擦り開ける彼女の耳に、聞き慣れた少年の声が響いた。とろんとした瞳で声の主を見上げて、アリアは薄らと微笑む。


「ずいぶんと私、寝てたみたいね。もうこんな時間なんて」


「仕方ないさ。あれだけのことがあったんだ。いくら神としての魂を持つ君でも、今はその身体も力も人間と同じなんだから——」


エリオスはそう言うと、開け放った窓に手をかける。


「寒い?」


「ううん。気持ちいい」


アリアの答えにエリオスは小さく頷くと窓から手を離して彼女が寝ていたベッドの上に腰掛ける。そして上体を起こした彼女の額にそっと手を触れた。


「そのまま横になってなよ。起きてるのも体力を使うだろう」


「まるで病人みたいな扱いね」


そう言って皮肉っぽく微笑みながらも、アリアはエリオスの言葉に素直に従って布団の中に身体を埋める。それを見届けるとエリオスは小さく吐息を漏らす。


「——全部終わったの?」


そうアリアから問いかけられた瞬間、エリオスは一瞬表情を硬らせた。しかしすぐにそれも緩んで、目を細める。


「うん。終わった——怒ってる?」


「ちょっと口惜しくはあるわ。一発くらいぶん殴ってやりたくもあった。けど、きっとアンタなら私の溜飲も下がるような始末のつけ方をしてくれたんでしょ?」


楽しげな視線を送るアリアに、エリオスは茶目っけたっぷりにウインクして答える。


「もちろん——悪役らしく、凄絶にね。ちょっと今の君には刺激が強いくらい。エリシアちゃんも吐きそうになるくらいだったから」


「あら、エリシアも一緒だったのね。ということは気が付いてないのはシャール(あの娘)だけ?」


アリアの問いにエリオスはこくりと頷く。アリアは小さくため息を漏らすと、目を閉じる。


「幸せなのか、哀れなのか……分からないわね」


「——まあ、知らなくてもいい真実もある。知ったところで生きる上での負荷にしかならない事実もある。気が付いたところで何も変えられない現実もある。哀れなのは、彼女にはそれについて『知る』という選択肢を与えられなかったという一点だけさ」


「それは自分のことも言っているのかしら? あの日、選択肢なんて何もないままに人間の醜さ、悪性という知りたくない剥き出しのモノを見せつけられたことへの?」


アリアの言葉にエリオスはぴくりと眉を動かす。そしてゆるゆると首を振りながら薄く笑う。


「まさか。私は自分を憐れんだりなんてしない、あらゆる過去は私を前へと進ませるために燃える薪だ。そうあれかしと私が定めた、私が決めたんだ。君の手を取ることも、悪役として生きることも」


「——そうね。そうだったわね。ふふ、悪戯とはいえ悪いことを聞いたわ」


アリアはそう言って、隠れるように布団に顔の半分を埋めてみせた。そんな彼女にエリオスは苦笑を漏らす。

そんな彼を見ながら、アリアはふと口を開いた。


「ねぇエリオス。私ね、今回の件でひとついいことを思いついたの」


「いいこと?」


「少し先になるかと思うのだけど、実現できる確証なんてないのだけど……私アンタと一緒に戦えるかもしれない。守られるだけじゃない、アンタのための武器になれるかもしれない」

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