Intld-I-iii
最後に残ったのはミリアの死に様の後始末だった。彼女の身体の残骸は、広間の至る所に転がっていた。
骨近くまで削がれた肉片、飛び散って踏み躙られた手の指、髪の毛、舌、歯、爪、眼球。
それらを拾い集めていくことは、ある意味で他の二人よりもよっぽどシャールにとっては苦しいことだった。
彼女の死に様が分かってしまうからだ——肉を削がれながらに、指を落とされながらに、骨を砕かれながらに、戦って戦って戦って、そして殺された。
他の二人のように一瞬で命を奪われたのでは無い、時間をかけて嬲るように、痛みと恐怖を与えながら殺されたのだ。
だというのに、彼女は逃げなかった——それは、エリオスにその亡骸を引き摺られた時のもの以外、広間の外に彼女の血痕が無いという事実が物語っていた。最後まで、あの広間でエリオスと相対していたのだ。
怒りが湧く——それは、彼女の勇姿を嘲笑いながら苦悶を与え続けた悪役に、そしてそんな彼女に甘えて逃げ出して、果てはエリオスに屈して未だに生き永らえている自分自身に。
シャールの掌の上にはミリアの眼球が転がっていて、そのくすんだ瞳は真っ直ぐに彼女の方を見つめていた。
それを見て、シャールは「あう」と嗚咽を漏らす。そして堰を切ったように———
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい——」
喉の奥から、薄紅色の唇から、懺悔の声が自然と漏れ出す。
ミリアは優しい人だったのだと思う。貴族である彼女からすれば、取るにも足らない辺境の村娘でしかなかった自分を、彼女は常に気遣っていた。
そして苦しんでいたように見えた——ルカントの冷たさや、アグナッツォの侮蔑、リリスのシャールを嘲笑する気持ちや理由も彼女には分かってしまうから。
それでいて、シャールのことも守りたいと思ってくれていたことは、彼女の目にも分かっていた。
そして、不器用な人だったのだとも思う。シャールのことを守りたいと思いながら、アグナッツォやリリスと口論し仲間の中で不和を起こしてはいけないとも思っていたから。彼女は結局どうすることもできず、気の毒そうな視線をシャールに送り、影で労ることしかできなかった———本当はシャールにとってそれはとても大きな救いで、「しか」ではなかったのに。彼女はついぞそれに気づかなかった。
広間の中をぐるっと一周して、彼女の骸の欠片を集め切ったシャールはそれをハンカチに乗せて、アグナッツォやルカントを埋葬したところへと運ぶ。
重くはない、とても軽いのに。心は鉛を流し込んだように重くて、苦しかった。
シャールは、ミリアの残骸をルカントの墓標の隣へと葬った。
シャールの目から見て、ミリアはルカントに惹かれていたように思えた。それでも、リリスのように好意という感情を表に出せずにいて、リリスがルカントに近づいていくのをただ見ていることしかできないでいた。本当に不器用な人だったのだ。
「せめて———」
シャールはハンカチに包んだミリアの欠片を穴の中に置いて、そっと毛布をかけるように土を置いた。




