Intld.Ⅳ-ⅶ
「さて……申し開き、或いは言い訳はあるかな? 村長」
エリシアは冷たい笑みを浮かべながらそう言った。彼女の顔は笑っているけれど、その腹の底では怒りの炎が燃えたぎっているのが村長にはわかった。その怒りを映すかのように、彼女の持つ聖剣の刃は揺らめき、燃え盛る業火のごとき色を映していた。
「あ……ああ……うう……」
喘ぐような声を上げながら、村長は思考を巡らせる。まだ、まだ終わってはいない。何とかして言いくるめ、この場を収め、脱して生き延びねば。
彼の思考回路はただ、そのために焼けつくように稼働していた。もはやこの場の趨勢からして、それが叶わないという誰の目から見ても明らかなことすら算出できないほどに、焦げ付いていたのだ。
「——そ、それは……決め手にはならない……」
「何だって?」
「だって、そうじゃないか。君は君が聖剣使いであることをこの村においては私しか知らないはずだから、私が彼らに情報を流したのだと言ったが、それはあくまで私がその秘密を秘密として扱っていた場合の話だ」
起死回生の一手を見出した。そう言わんばかりに、勝ち誇ったような表情で、村長はつらつらと語りだす。
「——私が他の誰かに話していたら……村を守ってくれると言っていたエリシアは聖剣使いの勇者なのだよと誰かに言っていたとしたら? 君の論理は瓦解する! リドルさん、貴方の論理もだ。貴方の論理も村人の誰かであれば、誰だって出来ることだ! だから——!」
「——商品一人の斡旋につき、金貨八枚」
「——ぇあ?」
自分の滔々たる語りを遮り、エリオスが唐突に口にした言葉。その言葉に村長は思わず絶句する。エリシアは何のことなのか分からず、少し困惑をしたような表情を浮かべているが、村長はまるで自分の心臓を掴まれている様を、目の前で見せつけられているかのような怯えた表情をみせる。
そんな彼の顔に目を細めながら、エリオスは続ける。
「村の襲撃に際しての情報提供、一回につき金貨二十枚。襲撃の後始末につき、一回金貨五枚。内容に応じて加算もあり——君と彼らの契約は確かこんな感じだったかな?」
「な、な……」
「何故そんな契約条件を知っているのかって? きっと言っても理解できないだろうけど、私がアリキーノを食べたからだよ。だから彼の記憶の中身私は知っている——君と彼らの取引についても知っている」
この段に至ってようやく、村長は理解した。エリシアはともかく目の前の旅人は、推理推測で今この場に立っているのではない。確信なんてものではなく、ただ事実として自分と盗賊たちの関係を「知っている」のだと。
故に、もはや言い訳など無意味。言い逃れなどもっての他。彼の目によって、全てが見透かされてしまっているのだと、原理は分からないけれどそうなのだと村長は直感で察した。
「あ、ぐぅぅ……あああ……」
どうする、どうすればいい。終わりか、終わりなのか? 罪は見透かされ、逃げ道は観念的にも物理的にももはや無い。そんな彼に取れる手段などというのははもはや一つしかなくて——




