Intld.IV-vi
「え、エリシア……君まで……というか鍵は!?」
突然窓から現れたエリシアに、村長は叫ぶ。そんな彼にエリシア茶目っけたっぷりにウインクしてみせる。
「ふふ、まあ針金でちょいちょいとね——それよりも、無事に盗賊を退治してきてあげたって言うのに浮かない顔じゃあないか村長。だいたい、せっかくの凱旋に依頼者が顔を出さないだなんてあんまりだと思わない?」
「——ッ! そ、それは……その」
どもる村長にエリシアは微笑んだまま冷たい視線を向ける。
「はは、まあいいよ。別に取り繕わなくても。ボクの見解はそこの彼と一緒だ。君が盗賊たちと繋がっていた、そのことだけは確かだ」
「な、何を根拠に……しょ、証拠でもあるのかね!」
村長はいよいよ余裕を無くして、口角泡を飛ばしながら叫ぶ。そんな彼に向けて、エリシアは腰に差した聖剣を抜く。
「——盗賊たちはね、ボクらを捕らえた時にこう言っていたんだ。ボクたちはあの教団にとって高い商品価値があると。何故ならボクとシャールちゃんは聖剣使いだから、とね。でもね、それはおかしいんだ」
「な、何がだね……聞いた話によれば、件の教団はアヴェスト神話群を曲解した狂信者どもだったのだろう? なら、神の奇跡の具現たる聖剣使いが高い商品価値があるという話になっても何もおかしくなど……」
「違う違う違う違う、話の内容なんかは問題じゃあないんだよ村長」
村長の話を遮るように、エリシアは指を振りながらそう宣う。
「ボクはね、あの時聖剣なんて使ってなかったんだよ」
「——は?」
「ボクは彼らに捕らえられる直前まで、聖剣を隠していて、戦闘はこのナイフで済ませていたんだ。だから、彼らはボクらを捕らえるまではどう考えてもボクのことを聖剣使いであると知ることは出来なかった——誰かが情報を流していない限りはね」
愕然とした表情の村長に、エリシアは微かに笑いながらさらに続ける。
「さらにもう一つ。盗賊たちはボクらを投降させるためにアイリちゃんをわざわざ教団から買い戻して人質にした。これは、シャールちゃんとアイリちゃんの関係を知っている者の入れ知恵があったとしか考えられない——そして、その関係を知っているのは間違いなく村の中の誰かだ」
「で、でもそれだけでは……私以外にだって……!」
「この村でボクらが聖剣使いだってことを知っているのは貴方だけだよ村長」
「え」
エリシアの言葉に村長は目を丸くして絶句する。エリシアは抜いた聖剣を眺めながら、話を続ける。
「そもそもね、ボクという聖剣使い——ヴァイストの使い手が現れたというのは、聖教国的には最高機密なんだ。基本的に知っているのは最高巫司の周辺のみ、だからボクも不用意に周りに話したりはしない。この村において、ボクはあくまで『シャールちゃんの知り合いの腕っぷしの強い美少女』に過ぎない。ただ、依頼人となる貴方にだけは、その信頼を勝ち取るために下見の時点で素性を告げていた。ま、一種の誠意の示し方としてね。でも、それが貴方の不誠実を証明する鍵となっちゃったわけだ」
そう言ってエリシアは歯を食いしばる村長に嫣然と笑いかけた。




