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Intld.Ⅳ-ⅳ

——まずいことになった。

彼女たちが帰ってきてしまった。シャールとエリシア、盗賊退治に向かった二人。

盗賊どもに捕らえられ、売り飛ばされて二度とその顔を拝むこともないだろうとたかを括っていたらこのザマだ。まさか、あれだけの規模の盗賊団を相手に勝利し、村人たちを連れ帰ってくるだなんて思っても見なかった。

これは私の失態か?

否、否! 悪いのは私ではない。悪いのはあの盗賊どもだ!

ここまで散々に心を砕き、協力をしてやったと言うのに、聖剣使いとはいえたかだか二人の小娘に負けておきながら、アリキーノ子爵家子飼いの私兵どもが笑わせる。

大体、あれだけお膳立てして、確実に負けることのない条件を整えてやったと言うのに、何故だ! どこまでも無能、愚鈍。嗚呼、へこへこと従ってみせた私まで馬鹿みたいじゃないか!

嗚呼、腹立たしい。

せっかくこれまでも、商品を卸す手伝いもしてやっていたと言うのに、今月分の支払いだってまだだと言うのに、あっさりと全員捕まりおって!


だが、今はそんな目先の金のことや連中の無能さに腹を立てている場合ではない。そんなことをしてももう何にもならないのだ。私は連中のような間抜けではない、だからこの後の自分の身の振り方を、自分がどうするべきなのかをまず第一に考えるのだ。

盗賊どもも、奴らが取引していたと言うイカレた教団も、聖教国の異端訴追騎士団に捕えられたのだと、村に帰ってきた商品たちから聞いた。

奴らの拷問や尋問に掛かれば、盗賊団の誰かが私が関与していたことを吐くかもしれない。

そうなれば、私は破滅だ。今の地位も、築き上げた信用も全て失う。いや、それだけならまだいい。だが、場合によっては財産やこの身すら——異端訴追騎士団の団長を務める男、ザロアスタ卿は聖教会でも随一の狂信者と聞く。そんな彼が率いる騎士団に囚われて、異端の教団との繋がりを咎められれば、良くて牢獄行き、最悪処刑だ。

それにもし、異端訴追騎士団に処分されなかったとしてもこの事実が明らかになれば、村人たちは私を許さないだろう。シャールの家を燃やしたときのようにあの馬鹿どもは怒りと不満に身を任せて私刑に走るだろう。今のこの国にそれを咎める権力は存在していない。恐らく異端訴追騎士団に助けを求めたところで、見殺しにされるのがオチだろう。

そうなれば、私に待っているのは聖教会による処刑など比にならないほどの苦痛に満ちた死だ。

そんなのはごめんだ、まっぴらだ!


嗚呼、こうなれば仕方あるまい。ここまで築き上げた地位や名誉を失うのは心苦しいが、命あっての物種だ。ここは、持てるだけの財産を持って外国にでも——


「やあ、お出かけかな?」


カーテンを閉め切った暗い部屋の中、不意に響いた声に、私は思わず振り返る。開け放たれたドアの向こうに、少年が立っている。わずかだが、見覚えのある顔だ。確かリドルとか言ったか……彼も戻ってきてしまっていたのか。つくづくまでに無能な連中だ——だが、何故彼が今こんなところに。


「い、いや……その……」


言葉が痞えてうまく出てこない。彼はそんな私に微笑みかける。天使の皮を被った悪魔のような笑みだった。


「まあ、そう慌てず急がずに。ね、村長さん」

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