Intld.I-ii
ささやかな葬送
シャールはルカントの遺骸を、それまで自分が背負っていた荷物の中に入っていた布に乗せて引きずり、館の外へと持ち出した。
「スコップは———ないよね」
一瞬、聖剣をスコップがわりに——とも思ったが、いくらルカントの弔いのためとは言えそんな扱いをするわけにもいくまいと思い直す。
結局、シャールは城の外の森の中、その一角を草をむしり墓地に見立てることにした。土の柔らかそうなところを見つけ、手で穴を掘る。
冷たい土の感触にシャールは表情を歪める。半刻ほどかけてようやくシャールはルカントの下半身が収まるくらいの穴を掘ることができた。
そしてシャールはルカントの身体を布にくるんで、穴の中へと沈め、土をかける。冷たく湿った土をルカントの亡骸の上からかける度に、シャールは自分にも土をかけているような感覚に陥る。ふと、冷たい土の中で腐り、骨になっていくルカントの遺体の様を想像してしまうと、とても居た堪れない気持ちになり、何度土をかける手を止めようと思ったか知れない。
そんな煩悶と格闘しながら、なんとかシャールは木の枝の簡素な墓標を立ててルカントを埋葬した。
再び広間に戻ったシャールは、続いてアグナッツォの死体を検分する。
首を刎ねられて死んだアグナッツォの表情は、どこか穏やかなものであった。いや、これは穏やかというより、「虚ろ」と表現した方が良いのだろうか。苦悶もなく、救いもなく、ただただ何が起きたか理解し切る間もなく死んだ者の顔とはこういうものなのだろうとシャールは思った。
ルカントの遺体同様に、シャールは傷跡をじっと見る。綺麗な傷跡だった———柔らかくなったバターにナイフを通したような、滑らかな切断面。それは首の骨すら例外ではなかった。
ルカントの遺骸との大きな違いだ。さらに言えばアグナッツォは首を刎ねられただけで、首も胴体もちゃんと存在している。
——二人は殺され方が違う
この違いは一体何を意味するのだろう。シャールはふとアグナッツォの首を抱きながらそんなことを考えていた。
シャールは数瞬の後に、首をぶんぶんと横に振る。早くアグナッツォも埋葬しなくては。
苦手な部類の人ではあった。能力に劣る存在にはとても厳しくて、怒られたことも呆れられたことも何度もあった。理不尽と思うこともあった。でも、こうして彼は仲間のために、人類のためにと自らの命を賭して戦ったのだ。そういうことができる人だったのだ。
苦手ではあるし、好きにはなれない人だった。しかし、それとは別に彼にもまた敬意を払うべきだとシャールは思っていた。
アグナッツォの埋葬は、下半身だけのルカントよりも骨の折れる仕事だった。
それでもシャールは、静かに彼を土の中に横たえた。
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