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Ep.5-135

ごめんなさい

静かになった広間で、巨大な口の中に呑まれて消えていった教主を見送ったアリアは小さくため息をつく。

そんなアリアにエリオスは乾いた拍手を送る。


「お見事だったね——流石は私のご主人様。えげつなくていらっしゃる」


「ふふ。ちゃんと罰になっていたでしょう? だってあのまま殺したら、彼は自分を『理想と信念に殉じた英雄』みたいに定義して満足げに死んでいきそうでしょう? あれだけのことをしておいて、そういうのって許せないわよねぇ」


アリアは口元に手を当てながら楽しげにそう答えた。そして、教主の血の跡が残る祭壇をちらと見遣る。


「だから徹底的に奪い、蹂躙した。彼の大切なものを。彼の根幹にある欲求は名誉欲——『世界を救う』だの『自分を放逐した聖教会を見返す』だの。翻ればそれは『自分の人生を誇れるものとして飾り立てたい』という欲求で、それが彼にとっての人生の至上命題。だから、それを奪ってあげた——上げて落とすっていう基本的なテクニックも交えてね」


「テクニック、ねぇ……君、使ったのはそんな小手先のモノだけじゃあないだろう?」


そう言ってエリオスは皮肉っぽい笑みを浮かべながら、アリアを質してみる。アリアは一瞬きょとんとした顔をしていたが、すぐににんまりと笑ってみせた。


「あら、バレてた?」


「言葉に魔力を乗せて、毒を仕込むかのように相手の心を侵し、判断や思考を操る——神ならではの力、『言霊』とでも言うべき類感魔術や感染魔術と並ぶ原初の魔術の一つ」


「正解。彼は私を『悪の女神』だと認めたとしても、それはそれ。別にそれまでの話はただの私の嘘と断じることで自分の心を守ることは出来た。でも、私はそれをさせないように彼の心を操った——結果として、彼は自分の至上価値を踏み躙られ、精神を悉く壊されて、絶望と妄執の中死んでいった。ふふ、見た? 『死にたくない』とか『神様ぁ』って泣き喚くあの無様で可愛らしい顔! あー、清々したわ!」


そう言いながらアリアは教主の消えていった天井を見遣る。既にエリオスが生み出した『物質主義』の獣はそこには無く、元の天上の神々が描かれたフレスコ画の天井に戻っていた。

アリアはそこに描かれた神々の姿を目を細めながら見つめる。そんな彼女に、エリオスはさらに問いを重ねる。


「言霊を使うための魔力は、彼らが君に流し込んだこの神殿の魔力?」


「そ。アンタが私の中に流れ込んだ魔力を純粋なモノへと精製する『処置』をしてくれたおかげね。今の私は、低級の精霊くらいの力なら使える。ありがとね」


「お褒めに預かりまして光栄だよ」


慇懃に腰を折るエリオスにアリアは微笑を溢して、歩み寄ろうと一歩足を踏み出す。しかし次の瞬間、そのまま脚の力が抜けたかのようにアリアはその場で崩れ落ちる。


「——っと」


そんな彼女に駆け寄って、エリオスはその背中にそっと手を回して抱き止める。アリアは自分を抱いたエリオスの顔を見上げると、小さく微笑んだ。


「なんて顔してるのよ」


「……君がこんなになっているのに、愉快な顔なんてしていられるものか——本当にごめん」


エリオスはそう言って沈痛な表情を浮かべる。そんな彼の顔に、古い記憶が脳裏を掠めてアリアはため息混じりに目を細めた。

前回次でEpisode.5は終了と言いましたが、あれは嘘になりました。長くなりすぎたので分割しまして次で最後です、これは嘘じゃないです……本当です……

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