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Ep.5-131

「本当に下らなくて笑えない、三文芝居みたいな人生だこと」


「なん、だって……?」


アリアの嘲笑に教主の顔が引き攣る。先程までの恐怖や戦慄の色は鳴りを潜めて、その顔には燃え盛る炎のような凄まじい怒りが滲んでいた。


「ふ、ふざけるなァ! ぼ、僕はこの理論に人生の全てを捧げてきたんだ! 地位も、財産も、家も、何もかもだ! そ、そんな僕の——」


「あら、そうだったの。だとしたら、本当に無駄な人生だったわねぇ。その愚かさは天井知らずってところかしら?」


「言わせておけば貴様ァ!」


教主は腕のない身体ながらに上体を跳ね上げて、怒りのままにアリアの喉笛をその歯で噛み切ろうと、彼女の首筋に迫る。しかし——


「何してんのさ。そこから動く許可なんて与えた覚えはないよ」


エリオスの冷たい声が響いたのと同時に、彼の足元の影から伸びた黒い槍が、教主の肩を貫き押し倒し、そのまま彼を祭壇に縫い付ける。


「がぁぁぁッ!? 痛い痛い痛いよォォッ!」


新たな傷にのたうつ教主を冷たい瞳でちらと一瞥すると、エリオスはまたアリアの背に手を当てて彼女への「処置」を再開する。普段からは考えられないほどに遊びのない彼の振る舞いに、アリアは思わず苦笑を漏らす。

それから、アリアは再び教主の方を向き直り、滔々と語る。


「貴方は本当に頭が悪い。この世に蔓延る悪や罪業の原因も解決策も、たった一つのモノにのみ求めて……この世界はそんなに単純なモノじゃない——そんなことになぜ気がつくことが出来なかったのかしら——」


「き、君ごときに何が分かる……がァァァッ!?」


教主の肩に突き刺さった黒い影の槍が彼の傷口の中で蠢き暴れ出す。身のうちから傷口を拡張させられ、肉や骨を神経ごと削られる激痛に、教主は割れんばかりの絶叫をあげる。

そんな彼を冷たく見下ろすエリオスの横腹をアリアは膝で小突く。


「ちょっと、うるさいわよ?」


「嗚呼、これは失礼。それじゃあ君の話だけは遮らないようにしておこうか」


エリオスがそう言ったのと同時に黒い影が彼の足元からもう一筋立ち上る。その影は、絶叫を撒き散らす教主の口の中に入り込み、彼の顎や舌の動きを完全に封じる。


「それ、呼吸困難で死んじゃわないかしら?」


「鼻は空いてるから大丈夫でしょ」


エリオスのそっけない答えに肩を竦めながら、アリアは肘から先の無い手をバタバタさせて口に潜り込んだモノを取り除こうと暴れる教主に視線を戻す。


「ねぇ、エリオス。アンタは彼がどうしてこんな勘違いをしてしまったんだと思う?」


「……自分というものを顧みなかったからじゃない? 自分の醜さ、愚かさ。自分の中にある悪と罪を顧みず、棚に上げて、認識しようとしないから、その本質に理解が及ばない。自我と悪とのどうしようもないほど強固な連結を認識しないし、できないから。まるで人の悪性というものが外部から齎された病気のようなモノだと勘違いした。なんてのはどうかな?」


「奇遇ね。私もおんなじようなこと考えてたわ。自分を正義と定義し、『世界を救う』なんて妄言を無邪気に吐く人間にありがちよね。ふふ、本当にお馬鹿さん」


アリアの嘲笑とエリオスの言葉に、教主はその目の端に涙すら浮かべ、みっともなく表情を歪ませる。そんな彼の涙を白く細い指で掬いながら、アリアは愉しげににんまりと笑う。


「でもね、そんな見下げ果てた貴方だけど、私は一点だけ評価してるの」

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