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Ep.5-127

エリオスの鋭い眼光に貫かれた瞬間に、教徒たちは皆全身をびくりと震わせる。続いてエリオスが一歩足を前に進めた瞬間に、彼らは我先にと広間の出口に向かって駆け出す。しかし――


「な、なんだこれは……!」


教徒の一人が出口の前に立ち尽くしながら叫ぶ。扉を開けた先、本来であれば地上へと向かう階段があるはずのところには何もなかった――空間も、光も何もないただの黒がそこには広がっていたのだ。教徒が恐る恐る手を伸ばしてその黒に触れてみようとするが、何も掴めない。何も掴めないのに、進めないしその黒を貫通することもできない。ただ、上滑りしているだけのような感覚。

殺到する教徒たちは、前にいる同胞たちをかき分けて前へと進もうとするが、結局皆その黒に阻まれて、ただ蠢く虫のような塊になっていくだけ。

そんな彼らに向けて、厭に高い声でエリオスは笑いかける。


「――踏み倒しなんて許さないよ? 私は借りを返すかはともかくとして、貸したものは地獄の果てまで追いかけて取り立てる主義なんだ」


そう言って、エリオスはゆっくりと教徒たちに近づいていく。そんな彼に、教徒たちは慄きながらも振り返り息を呑む。しかし、怯えながらも彼らは気が付いたのだろう。自分たちをこの空間に閉じ込めているのは目の前の少年なのだと。

教徒たちは揃いのローブの懐から各々武器や魔杖を取り出してそれをエリオスに向ける。


「――へえ、腰抜けだけかと思っていたけど戦えるんだねえ。でも、今の私にはそんな君たち(ダニ共)を一匹一匹丁寧に相手してつぶしている時間は無いし、そんな気もない。でも安心してほしいな……」


エリオスはそう言って、両手を広げる。その瞬間に、彼の周囲の空気がぞろりと揺らめく。それと同時に彼の影も蠢き、カタチを以て立ち上がる。浮かび上がった煙のようなそれは、同時に吹き荒れ始めた黒い風と相俟って、天井に滞留し神々の姿が描かれたフレスコ画を多い隠す。


「是なるは『物質主義(キムラヌート)』の獣よ。君の果てることのない醜悪な欲望、その一時の慰みに彼らをくれてやる」


エリオスがそう言った瞬間、天井に滞留した黒い靄のようだったソレは、形を成して実体化する。歪な表皮、そこに現れるいくつもの巨大な眼と口。その悍ましい姿に、教徒たちは戦慄しアリアですらその表情をわずかに強張らせる。

そんな中、ひとり平然としながらエリオスは教徒たちに語りかける。


「ああ、安心してほしい。君たち一人一人を相手して丁寧につぶしてあげることはできないが、その命の終焉はじっくりと、ゆっくりと……私の留飲を下げ愉悦を享受するために丁寧に執拗に使いつぶさせてもらうよ」


そう言いながら、エリオスはくるりと踵を返して教徒たちに背を向ける。それと同時に、天井の黒い靄から真っ黒な軟体生物的な手が伸びていく。教徒たちがその手から逃げ惑う中、エリオスはゆったりとアリアの座する祭壇まで歩み寄り、彼女の横に腰を下ろす。


「これがアンタが実験していた複合権能?――ずいぶんと醜悪なモノになったわね」


「ふふ、まあね。でも、人の欲や罪業なんていうのは混じりあい、絡まり合い歪で醜くなるものさ。これは、きっとその最たる例だろうさ。君の痛苦の慰みに、というにはあまりにも醜悪な出し物だけれど……まあ、楽しんでよ」


エリオスのふわりとした微笑みに、アリアは苦笑を漏らす。別に自分はそんなもの見てもなんとも思わないのだけど――そう思いながらもアリアは彼のそんな笑みを前にして、何も言うことが出来なくて困ったように笑い、そして視線を教徒たちへと戻す。

目の前では地獄が始まろうとしていた。

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