Ep.5-122
またもやちょいえぐめの描写ありです
「さて、ことに移る前に君にはこれからどのようにして儀式が行われるのかを教えておいてあげよう。君も気になるだろうからねぇ」
教主は次々に運び込まれる刃物や拷問具に視線が釘付けとなったアリアを見下ろしながら笑う。そんな彼の喜色に満ちた声に、アリアは腹立たしげに鼻を鳴らして視線を彼の細められた目元へと向ける。
「さて、類感魔術は既に君がこの場にいることによってその準備は完遂されている。その服もよく似合っているよぉ?」
教主は頬をわずかに紅潮させながらそう宣う。祭壇に縛り付けられたアリアが着せられているのは純白のシルクのドレス。スカート部分にスリットが入っていて白い足が露わになっていたり、肩や腕、胸元も大胆に開いていたりと、妙に露出度が高い。
これが、教徒たちの性的な欲求の発露であったのなら、どれだけ良かったことだろう。でも実際、彼女が露出度の高いドレスを着せられているのは彼らの性衝動ゆえのものなどではなくて。
「さぁ、少し痛むよ。好きに叫んでもらって構わないからね」
そう言いながら教主は傍に並べられたナイフの一本を手に取る。そしてそれを大きく振り上げた方思うと、その切先をアリアの露出した太腿に突き刺した。
「あぐぅッ!? い、あぁぁぁ……!」
銀色のナイフは白い肌を切り裂いて、肉の奥の太い血管を切り裂いた。ナイフと皮膚の隙間からはどくどくと血が溢れ出てきている。彼女の白いドレスはみるみるうちに赤く染まっていく。
そんな彼女を見下ろしながら、教主は何の躊躇いもなくナイフを引き抜く。その瞬間それまでとは比べ物にならない量の血が吹き出して、祭壇の上からも溢れてひたひたと床へと流れ落ちていく。
「さあ、君たちもやりたまえよ。遠慮せずに、さあ」
まるで宴会で盃やご馳走でも勧めるかのような調子で教主は周囲を囲む教徒たちに次々と刃物や錐を手渡していく。それを構えて自分にじわじわと近づいてくる教徒たちに、さすがのアリアの顔も引き攣る。
「あ……待って……ぅ、お願……い、いや」
震えるような声が苦痛に喘いでいた口から漏れ出ていく。自分でもこんなに惨めに許しを乞うようなことがあるのだと意外に感じる。
それでも、そんな彼女の声に耳を傾ける者がこの中にいるわけもなく、容赦なく彼女の身体を鋭い金属が蝕んでいく。
「ああ……うっぐ……うああああッ!」
柔肌に突き立てられる刃、爪と皮膚の間や骨と骨の間をさしたらなく錐。全身を切り裂かれ、貫かれ、削がれ、弄ばれる痛みにアリアは絶叫する。
アリアは急速に全身から熱が抜けていくのを感じる。それと同時に、自分の纏うドレスがぐっしょりと血に濡れて重く熱く赤くなっていくのも感じていた。
「うんうん、ご苦労様みんな! 一旦休憩だ、そろそろ神を下ろす準備が整ったからね」
そう言って教主はパンパンと手を叩く。彼の号令に従って、教徒たちはそれまで弄り回していたアリアの身体から離れていく。血の海となった台座の上で、アリアは未だに残り続ける激痛への喘ぎと、掠れた呼吸音を立てるだけの存在と成り果てていた。
そんな彼女に手を翳して、教主は目を閉じる。
「『癒えよ』」
「あ……ああああ!」
みるみるうちに傷が治っていくのを感じながら、アリアは震えるような悲鳴をあげる。治されてしまった。治らなければ神経がすり減って痛みすら感じずに済むかもしれなかったのに。また、あの苦しみが繰り返されるのだ。あの魂ごと引き裂かれるような痛みの多重奏に苛まれるのだ。
そんなアリアを見下ろしながら、教主は彼女の両手の枷だけを外してその青い髪を掴んで上体を無理やり起こさせる。
次の瞬間彼女は自分の目に飛び込んできた光景に思わず絶句する。
彼女が横たえられた大理石の祭壇。そこから溢れ、流れ落ちた大量の彼女の血は、広間の床の石畳の隙間に沿っていく筋もの線を描く。
真っ赤な彼女の血が石畳を走ることで描き出したもの。それは幾何学模様の方陣だった。




