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Ep.5-116

エリオスとシャールを包み込んでいた炎の竜は、眼下の廃墟群の中心、広場のような空間に降り立った。シャールの足の先が地面に触れるのと同時に、花が散るようにふわりと彼女たちを包んでいた紫炎は闇に解けた。

辺りはいやに静かで、シャールは思わず周囲をきょろきょろと見渡す。

いくつも並んだ廃墟廃屋――その密度や配置を見るに、この辺りはどうやらもともとは村だったようだ。少し遠くにはかなり大きめの屋敷も見える。比較的豊かな村だったのかもしれない。

しかし、かつての営みに心を馳せると、同時に今目の前に広がる惨状との落差に心が荒みそうになる。村が廃村になる理由というのはいくつかある。一つは村自体が廃れ、村人がいなくなる場合。二つ目は、税の取り立てがあまりに厳しかったりして、村人全員が離散してしまうという場合。そしてもう一つは、何者かに村を滅ぼされた場合。

廃村になってから長い時間が経っているのだろう居並ぶ廃墟の壁は無惨に砕かれ、露出した柱は黒く炭化している。この様子を見るに、この村が緩慢な死を迎えたという希望的観測は成り立たないだろう。

近くの石垣の下には灰に塗れて黒ずんだ人骨のようなものも見えた。


「――この村は、件の教団に滅ぼされてしまったんでしょうか……」


シャールはエリオスを見つめて、そう問いかけた。対するエリオスは、ひどく冷たい無味乾燥とした表情で村の様子を見つめていたが、シャールの言葉で我に返る。


「あ――ごめんね。なんだったかな」


「あ、いえ……この村が滅んだ原因……例の教団なのかなっていう話を……」


妙に素直で優し気な彼の答えに、一瞬呆気にとられながらもシャールはおずおずと先ほどの問いを復唱する。エリオスはそんな彼女の疑問を首をゆるゆると横に振って否定する。


「――違うよ。この村を滅ぼしたのは彼らじゃない」


「え――?」


何の根拠も脈絡もなく断言した彼に、シャールは思わず声を漏らした。その口ぶりはまるで、この村が何故滅んだのかを知っているようではないか。シャールはわずかに唇を震わせながら、エリオスに問いかける。


「貴方は……この村が滅んだ理由を知っているんですか?」


「――さてね。それはこの件には関係ないし、何より先を急ぎたい私としてはそんな君の個人的興味にかかずらっている暇はないのだけど」


「え、あ……ごめんなさい」


急にいつもの辛辣かつ皮肉っぽい、饒舌な調子に戻ったエリオスについていけず、シャールは言葉を詰まらせる。そんな彼女を見ながら、エリオスは小さく微笑むと目の前の森を見遣る。


「私が見た(アリキーノ)の記憶はここまで。彼は此処で、教団の連中と会合を持つことがあったみたいだ——彼の記憶によれば会合が終わったら彼らはこの森の奥に引っ込んでいったらしい……その先をアリキーノは確かめなかったようだけど、この森が連中の拠点なのは間違いない」


エリオスは淡々とそう告げながら黒い森の奥を凝視していた。森の闇と、その中へと人を誘う獣道を見つめながら、エリオスはぽつりと零すように言う。


「ひどい偶然だ……いや、それとも必然なのかな……」


彼が何を言っているのかシャールにはよく分からなかった。

その時、不意に一陣の風が吹いた。頬を撫で、舞い上がる風につられてシャールは空を見上げる。煌々と輝いていた月が、西に大きく傾いているのが見える。もうほんの数刻で夜明けが来るのだろう。

時間の経過に歯を噛み締めるシャールを一瞥してから、エリオスは告げる。


「さあ、行くよ。邪魔をせず、足を引っ張らずに私の役に立ちたまえよ?」

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