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Ep.5-102

「――ああ、クソ不味い……」


そんなエリオスの言葉と共に、彼の目の前の黒い風が夜の闇の中に霧散する。その後にはもはや何も残ってはいなかった、皮膚も肉も骨も、髪の毛一本ですら残っていない。アリキーノの肉の詰まった身体の全てが彼の「暴食」の権能に食い尽くされてしまったのだ。

エリオスは顔を顰めたまま、喉元に手を当ててじろりとアリキーノの部下たちを見遣る。その瞬間、彼らの表情が一斉に青ざめる。

エリオスはゆったりと歩みながら、彼らに向けて手を伸ばす。その手の先には、再び黒い靄が渦巻く。


「待ってくださいエリオス!」


そんな彼らの間にシャールは飛び込む。聖剣を強く握りしめて、その切っ先をエリオスの喉元に向けながらシャールは震える脚に力を込めて彼と対峙する。

そんな彼女にエリオスはわざとらしく驚いたような表情をして見せる。


「これはこれはシャールじゃないか! こんなところで会うだなんて奇遇だねえ、いや気づかなかった!」


「――彼らをどうするつもりですか」


シャールはエリオスのお遊びになど付き合うことなく、彼を睨みつけながらそう問いかける。

エリオスは彼女の問いを鼻で笑う。


「殺すよ」


「思いとどまってください」


「何故?」


いつもは饒舌に語るエリオスの短い応答に、シャールは違和感を覚える。そして、その正体を知りたくて、少し方向性をずらして問いかける。


「逆に聞かせてください。どうして貴方は此処に来たんですか、どうしてわざわざ貴方が手づから彼らを殺すんですか?」


「自明のことを聞いて時間を浪費させるのは利口な人間のすることじゃあないよ、シャール。聞いていただろう、そして分かっているだろう? 私から彼らが何を奪ったのか」


「——アリアさん、ですか?」


シャールの言葉に、エリオスは目を細める。その目の光があまりにも彼らしくない激情が溢れていて、シャールは思わず息を呑んだ。

そういえば、以前にも彼のこんな表情を見たことがあった気がする。アレは確か、アリキーノ子爵たちが彼の館に攻めてきた夜のことだったか。

シャールにはあの時と同じように、彼の姿がどこか揺らいでいるように見えた。

そんな彼女の視線にエリオスは表情を歪めながら、視線を逸らしてアリキーノの部下たちを見遣る。


「その通り。彼らにアリアは攫われた、傷つけられた——だから殺す。以上」


「待って下さい——彼らはそれに直接関わっていたわけではないでしょう? 貴方の怒りはもっともですけど、その殺意は最早八つ当たりです」


「——ッ!」


エリオスの表情が大きく揺らぐ。その動揺したエリオスの姿に、シャールもまた驚く。彼がシャールの言葉にそんな反応を示すのは初めてだったから。

驚きのあまりシャールが追撃する言葉を紡ぎ損ねていると、エリオスは顔を両手で覆い隠しながら天を仰ぎ、深く深く息を吸って吐いた。数瞬の沈黙がその場を支配する。


「……エリオス?」


「……確かに、君の言う通りだろうね……嗚呼、確かにこれは彼らからすれば八つ当たりだ……」


顔を手で隠したまま、エリオスは低い声でそう零す。その言葉にシャールは安堵の息を漏らす。しかし、次の瞬間シャールの表情が凍りつく。

見てしまったから——顔を覆う手指の隙間から覗く、彼の冷たい瞳を。

エリオスは顔を手で覆ったまま、低い声で呟く。


「——でもね、君は忘れてるんじゃない? 私が悪役(ヴィラン)だってことを」

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