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Ep.5-92

聖剣を身構えたエリシアに、筋骨隆々とした大男が先行して斬りかかる。分厚い刃が彼女の頭蓋骨を砕かんと迫るのを、エリシアは薄ら笑いを浮かべながらそれをヴァイストで受け止める。男は一瞬それに驚きながらもより一層力を込めて、押しつぶして競り勝とうとしてくる。


「馬鹿! 引けェ!」


ラカムの声が響く。男は一瞬振り返り困惑の表情を浮かべる。そして視線を戻した瞬間に、彼の表情は今度は驚愕に歪んだ。目の前の自分が打ち据えた女の剣が真っ赤に染まっていた。


「なんだ、これは……」


思わず男は声を漏らす。そして気が付いた、自分の剣が切られていることに。黒ずんだ重い鉄の剣が赤白く灼けていく。エリシアの赤い剣に触れた部分から、硬い鋼鉄の剣がじゅくじゅくと沸騰するように融けていく。その様に、男は戦慄する。

そんな彼にエリシアは楽しそうに笑いかける。


「——聖剣の火で火傷してみるかい?」


彼女がそう言い放った瞬間、男の剣は灼け折れ、エリシアの真っ赤な剣が男の胸板を斬り裂いた。


「ぇあ——ぐぅあああァァァ!?」


じゅうと肉の焼ける厭な匂いが辺りに立ち込める。それと同時に男はその場に仰向けに倒れ、胸を文字通り掻きむしりながらのたうち回る。


「——むう、決め台詞にしては少しダサいな……嗚呼、安心したまえ、致命傷にはならないはずだよ。さっさと治療すればね」


そう言ってエリシアは冷たい瞳で男を見下ろす。それから、視線を上げると睨め付けるように自分達に迫る男たちを射竦めてみせる。

そんな彼女に男たちは一歩後退る。しかし、


「馬鹿野郎! 相手は聖剣使いだ、一人でアレとやり合う馬鹿があるか! 一斉にかかれ!」


男たちの乱れた統制が、その一言で整う。そして再び円環状にシャールとエリシアを取り囲む。それを見て、エリシアは小さく舌打ちする。そして、挑発的な笑みを浮かべて男たちを嘲る。


「——全員聖剣の炎で焼き払ってあげようか?」


「は、そんなことしたら隣の嬢ちゃんまで丸焦げじゃねぇか? こんな狭い部屋だ、そうそう火なんて扱えねぇだろう?」


「——ッ!」


ラカムの反駁に、エリシアは眉間に皺を寄せる。確かにこんな部屋で聖剣の炎を解放すれば、シャールを巻き込んでしまうのは必定だ。

ラカムは言葉に詰まるエリシアの表情を見て、再び号令を掛ける。


「全員、斬りかかれ!」


迫る男たち、エリシアは表情を歪める。それを見てラカムも、男たちも勝利を確信して口の端を吊り上げる。しかし、声が響いた。


「——舐めないで、下さいッ!」


次の瞬間、エリシアたちを囲むように緑色の壁が男たちの攻撃を阻んだ。

それは大樹の幹のように太い巨大な蔦。それが何本も床から槍のように生え出ているのだ。男たちは突然目の前に現れたソレに唖然とする。


「『打ち払え、緑の槍』」


凛とした声が蔦の壁の向こうから響く。その瞬間、蔦の壁が解ける。そしてその蔦の先端が槍のように、男たちに迫る。

蔦はのたうつ触手のように暴れ回り、男たちの剣を叩き落とし、あるいは男たちの腹や首筋を強く打ち据えて彼らの意識を刈り取っていく。

あっという間に、十人以上いた男たちの包囲網は二、三人を残すだけとなった。

その様に、ラカムは思わず息を呑んだ。


「聖剣使い——それは、私もです!」


解けた緑の壁の中心で若草色に輝く剣を向けながら、シャールはそう吠えた。

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