Ep.5-91
見覚えのある廊下を駆け抜けた先にある、重々しい扉をシャールとエリシアは蹴り開ける。そこには、数人の盗賊たちが居並び、その中央には荷物をまとめるアリキーノと、こちらを睨みつけているラカムがいた。
「ひ、ひいい!」
「団長、あんまり怯えるな。士気が下がる」
情けない声を上げるアリキーノを窘めながら、ラカムは腰の剣をエリシアとシャールに向ける。そして眉間にしわを寄せながら、重々しく口を開く。
「なあ、ロビンはどうしたんだ?」
「何? 時間稼ぎのつもり?」
「は、そういうわけじゃあないがね。アイツはアリキーノ家の私兵だったころからの俺の部下だからな。少し気になっただけだ」
ラカムの言葉にエリシアは小さく鼻を鳴らした。そして、わずかに口の端を吊り上げて皮肉っぽい声で吐き捨てる。
「仲間想いだことで。なら何をするにしたって急いだほうがいい。早くしないと死んじゃうかも?」
「あのまま放置してきたってわけか?」
「逆に助ける理由なんてあるのかい?」
エリシアの淡々とした言葉――その言葉に、シャールは何か言おうと口を開きかけたが、直ぐに口をつぐむ。きっとエリシアとしてはこうしてラカムの動揺を誘っているのだろう。そんな彼女の思考を汲んで、シャールは険しい表情のままラカムを睨みつけた。そんな二人に、ラカムは肩を竦める。
「は、ありゃあしねえよなあ。まあいいさ、アイツもこの生業を選んだクズだ。クズらしく死ぬ覚悟も持ってしかるべきだろうさ」
「冷たいですね」
彼の言葉にシャールは思わず反駁した。そんな彼女の言葉をラカムは鼻を鳴らして一笑に付す。
「は、攫いに殺し、盗みや放火、なんでもござれの盗賊に何を求めているんだか――ふん、興醒めたな。さあ、そろそろ仕事をさせてもらおうじゃねえか」
そう言って、ラカムは辺りの盗賊たちに目配せをする。その瞬間、彼らも武器を構えてじりじりとエリシアとシャールに迫る。そんな彼らに対して、二人も聖剣を構える。
「ら、ラカム……」
「団長はさっさと行け。城門に部下どもを待たせているからな――まずは一旦身を隠せ。足止めは俺たちがする」
ラカムはアリキーノの方を振り返ることもなく、敵を真っすぐ見据えたままそう言い放つ。アリキーノははち切れそうな鞄を抱えたまま、部屋の端の本棚に駆け寄る。そしてその中の一冊の背表紙を深く押し込むと、本棚がすっと横にスライドして奥に隠し通路が現れる。アリキーノはラカムたちの方を振り返ることもなく一目散にその中に飛び込んでいった。
「――何で君たち、あんなのに仕えているんだい? 団長というならラカム、君の方がよっぽどふさわしいんじゃないか? それとも、律儀に亡家の主人に忠誠を誓っているのかい?」
「はは! 俺がそんな殊勝な奴に見えるか?」
「いいや全く。だから気になっている」
そう口にしたエリシアの言葉に、ラカムは口の端を吊り上げると次の瞬間、一歩深く踏み込む。次の瞬間、ラカムは一瞬でエリシアとの距離を詰め、握りしめた剣を叩きつけるように振り下ろした。
「――ふん」
しかし、エリシアは何というコトも無さげにその一撃をヴァイストで受け止める。それを見て、ラカムは歪んだ笑みを浮かべる。
「――は、それが聖剣の力ってやつか? 反則じゃねえかそれ?」
「数の力に頼る気満々の奴に言われたくはないね」
ラカムの言葉にエリシアは皮肉っぽくそう返した。ラカムはそんな彼女の言葉に鼻を鳴らすと、飛び退く。そしてその剣の切っ先を二人に向けて叫んだ。
「――てめえら、掛かれェ!」
ラカムの号令を受け、周囲の盗賊たちがエリシアとシャールに四方から殺到する。そんな危機的な状況にありながら、エリシアは笑顔でシャールの方に振り向いて笑った。
「さあ、シャールちゃん。まずは彼らを蹴散らしてあげようか!」




