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Ep.5-87

「……シャールちゃん?」


エリシアはアメルタートを握りしめて、一歩また一歩とロビンに近づいていくシャールを見て、ほんの少し焦りを帯びたような声で彼女の名を呼ぶ。聖剣を持つ少女が自分に近づいてきているのに気がついたロビンは、その表情を引き攣らせ、まるで地を這う小さな虫のように必死で出口へと向かう。

しかし、そんな彼の前にシャールは回り込み、その惨めな姿を見下ろす。


「ち、ちくしょう……ちくしょう……こんな、こんなところで……」


顔を涙と砂で汚したまま、ロビンは低く唸るようにそう言って、シャールを見上げる。シャールはそんな彼にアメルタートの切先を向ける。


「シャールちゃん!?」


エリシアは彼女が何をしようとしているのかを思い描き、表情を引き攣らせる。止めなければ——そんな衝動にも似た使命感が彼女の中で叫んだ。

シャールは聖剣を高く振り上げる。若草色に輝く刃が一際強く煌めいた。

次の瞬間、シャールは聖剣をロビンに向けて振り下ろす。


「ぐぅああァァァッ!」


地下牢にロビンの絶叫が響いた。エリシアは冷たい表情でロビンを見下ろすシャールの姿に思わず口元を手で押さえる。止められなかった、彼女に余計な業を背負わせてしまった。そんな身を引き裂きそうなほどの後悔がエリシアの中で暴れ出す。しかし、


「い、いだいいだいいだいィィィ!」


「あれ?」


ロビンは死んでいない。シャールが仕留め損ねたのか?そんなことを思いながら、エリシアはロビンの姿をよくよく見やる。

そして気が付いた。シャールが振り下ろした刃が切断したもの。それは黒い燃焼が広がる右手。シャールはそれを肩から切り落とし、切断したのだ。

燃焼がこれ以上彼の身体に広がることのないように。


「シャール、ちゃん?」


「貴方たちのしたこと、私の大切な友人を傷つけたこと。それは絶対に許しません——だから、謝ってください」


シャールはのたうち回るロビンを見下ろしながら、そう宣う。その瞳には涙が浮かんでいる。聖剣を握りしめた手はがくがくと震え、膝にも力が入っていない。今にもへたり込みそうな状態なのに、彼女は気合だけでその場に立って、毅然とした風を装ってロビンに冷然とした言葉を投げつけている。


「は——はぁ? な、何言ってんだ、お前ぇ……なんで、俺がそんな、ことを……」


「嫌なら結構です。貴方をこのまま放置するだけです。そうすれば、一刻としないうちに血が流れ出て貴方は死ぬでしょう。緩慢と、自分が死んでいくのを感じればいい」


「——ッ! く、くそがぁぁ!」


「さあ、早く。先ほど話していた通り、私たちは忙しい。貴方の葛藤に付き合っている暇はない」


冷然と、残酷なまでにロビンの言葉を一蹴するシャールの姿を見て、エリシアとアイリは息を呑む。いつものシャールからは考えられないような言葉と振る舞い。それでも、エリシアはどこかにシャールらしさのようなものも感じていた。その正体はよく分からないけれど。

ロビンは舌打ちをしながらも、自分の腕の切断面から溢れ出て、石の床に広がっていく赤黒い血を見て、顔を歪ませる。そして、絞り出すように声を上げる。


「す、すみません……でした」


ロビンは屈辱に震えながら、シャールに向けて頭を地面に擦り付ける。命には代えられない、そう判断したのだろう。こうすれば助かるのだから、今はこうしておけという戦略的妥協。そんな風に自分の中で言い訳を立てているのだろう。

しかし、シャールは眉をピクリと動かして冷たい声で告げる。


「違います」


「——は?」


「貴方は誰に謝っているんです? 私なんかに謝る必要ない。貴方が謝るべきはこの子でしょう?」


そう言ってシャールはちらとアイリの方を見つめた。アイリはきょとんとした表情で、シャールとロビンを代わる代わるに見ている。


「——ッ! な、なんで……俺が、そんな小娘に……」


「そう思うということは、貴方は私が求めた謝罪の意味を何も理解していないということです。理解していないから、謝るべき人間もその理由も分からない——そんな形だけの謝罪に意味なんて無いです」


そう言ってシャールは入り口に向かって歩き出そうとする。そんな彼女に縋るようにロビンは残っている左手を伸ばす。


「わ、分かった……分かったから……すまない、すまなかった……本当に、ごめんなさい……」


ロビンは頭を地面に擦り付け、啜り泣くような声でアイリに向かって謝罪の言葉を述べる。そんな彼を見て、アイリは困惑した視線をシャールに送る。

シャールはそんな彼女に小さく微笑むと、安堵の息を漏らして聖剣の刀身を彼の肩に置いた。


「アメルタート、彼を『癒して』」

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