Ep.5-82
団長室から運び出されたエリシアとシャールはそのまま砦の地下へと連れられて、牢獄へと叩き込まれた。
「〜〜ッ! いったいなぁ! レディの扱いがホントになってない!」
シャールと違って、本当に文字通り牢に叩き込まれたエリシアは石の床の上でのたうち回りながらそう悪態をついた。
とはいえ、少しだけ彼女の待遇は改善したと言えなくもない。何せ、先ほどまで鎖でがんじがらめだったのが、拘束具を完全に外されているのだから。そしてそれはシャールも同じことで、彼女もまた手枷や足枷を外されている。
尤も、それは二人に対する配慮などではなく、硬い岩壁と頑丈な鉄格子に囲まれたこの堅牢な空間の中では、拘束などする意味もないという程度の意味なのだろうが。
「——これから、どうしましょう?」
頭にのけぞるエリシアの背を摩りながら、不安げにそう呟くシャール。エリシアはそんな彼女に向けて、にんまりと笑ってみせる。
「さっきも言っただろう? ここまで七割五分は予想通り、と」
確かさっきは八割がたと言っていたような気もするが、シャールはそれに気が付かないふりをしつつ問いかける。
「……ちなみに残りの二割五分は?」
「んー? ふふふ、まだ内緒かな! でも安心してよ。状況は確実に、ボクたちに有利に動いている」
誤魔化すような笑みを浮かべながらも、エリシアはそう言い切った。根拠はわからないけれど、それがあまりにも頼もしくて、シャールはこくりとうなずいた。
しかし不意に、エリシアは表情をわずかに曇らせる。
「さて、そろそろ脱出と救出に向けて動き出したいところだけど……ううん……」
「えっと……どうか、したんです?」
シャールとしては、まるですでに脱出する手段が手の内にあるような彼女の言い方にも思うところがあったけれど、それ以上に先ほどあれだけ「予想通り」と言い切っていた彼女の表情が曇った理由の方が喫緊の問題として気になっていた。
不安げな表情を浮かべるシャールに、エリシアは頭を掻きながら苦笑いを浮かべる。
「ああ、ごめんね。うん、そうだね。まあ、2割の予想外のうちの一部なんだけれど、さっきのアリキーノの言葉が気になってね」
「ああ……それは、確かに」
アリキーノはシャールたちが部屋から連れ出される際に「また後程」と言っていた。それは、この後彼からシャールたちに接触してくるという意思表示と考えるのが妥当だろう。
それを考えると、打って出るタイミングをエリシアが測りかねるのは無理もない。
相手の接触を待つか、あるいは先んじて脱出するのか。アリキーノが何をしようとしているかが分からない状況では、どちらが最適解なのか判断がつかないのだろう。
「まあ、彼みたいな下衆が何をするのかはだいたい予想がつくのだけどね――そしてボクの予想通りなら、このまま待っていた方がいいかもなあ……なんて話してたら、ちょうど来たみたい」
彼女がそう言ったのとほとんど同時に、牢屋の外、石壁の廊下から硬い足音が響いてくる。音の調子からするにどうやら数人ほどの人間がこちらに向かってくるようだ。シャールはわずかに身構える。
「やあ、お二人さん。地下牢の居心地はどうだね?」
そう言って二人の前に現れたのは、アリキーノだった。その後ろには、ラカム、そしてロビンが控えている。そして彼らの前を歩かされているのは、亜麻色の髪を揺らす少女。
「アイリ……!」
シャールは震える声でそう口にした。
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