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Ep.5-80

「え……は? うそ?」


アリキーノ団長の言葉に、シャールとエリシアは呆気に取られる。そんな二人ににやにやとした笑いを向けながら、アリキーノは続ける。


「嗚呼、尤も私の素性だとか、ここに至った大体の経緯は本当だ。我が家は、先代アリキーノ子爵の失態を咎められ、王家不在の中潰された。家中の者は露頭に迷い、私もまた地位を失った」


悲壮感あふれる言葉。だというのに、それを口にするアリキーノの顔は不自然なほどにニヤついていた。そのギャップがあまりにも不気味で、シャールは思わず息を呑む。


「こいつらも同じ——今この盗賊団を構成しているのは二種類の人間だ。一つは、我がアリキーノ家に仕えていた私兵たち。そこにいるラカムも、私に対する敬意が大いに欠けてはいるが、当家の私兵の長だった」


睨め付けるような視線を向けられて、ラカムは苦笑を漏らしながら肩をわざとらしく竦めてみせる。

アリキーノ家は歴代、近衛騎士第二師団長を務める家柄だという。そして、第二師団の役割は王の特命の執行。即ち表には出せない汚れ仕事の請け負いだ。

そんな任務を課せられたアリキーノ家。そのお抱えの私兵であるとするのならば、その仕事の汚れ具合は第二師団の正規の騎士たち以上のものだろう。

諜報や隠密はもとより、王の政敵の処分のために、暗殺や誘拐だってしてみせたかもしれない。

そう考えてみれば、ディーテ村を幾度も襲撃して、一度も捕虜を取られたことがないという、ラカムたちの単なる盗賊にしては異様なまでの手際の良さも説明がつく。


「もう一つは、レブランクの崩壊に伴って住む家や生活する基盤を失った平民ども。飢えに苦しみ、貧しさに喘いだ果てに、同じような境遇の人間から搾取する盗賊の道を選んだ連中だ。尤もこいつらは当家の私兵たちとは違って、盗賊としての能力は概してクソだからな。精々拠点を守る肉の壁にしか使えん」


アリキーノ団長はそう吐き捨てる。

シャールはエリシアとともにラカムたちが拠点としていた森を襲撃した時のことを思い出す。最初に遭遇した盗賊たちは随分と戦闘に不慣れなようだった。支給されている武器も通り一遍で、単に持たせただけという印象。

これは、団長であるアリキーノや現場の監督者であるラカムが、彼らを「その程度の存在」として認識し、利用していたからだろう。

そう考えれば、最初に刃を交えた盗賊たちとラカムたちとの実力の差も納得がいく。


「——それで、じゃあ何が『嘘』なのかな?」


滔々と自分のペースで講釈を垂れるアリキーノに、どこか苛立った様子でエリシアは問いただす。

そんな彼女に、アリキーノはにたにたとした笑みを浮かべて、その目を細めた。


「うむ。まあ、何が嘘かと言われればそれはひとえに私がアリキーノ家を潰されたことをどう思っているかという点についてだ。私は先ほど、さも怒り狂っているかのように叫んだ」


たしかに、先ほどのアリキーノの、シャールを糾弾するような目や声は、凄まじい怒りを滲ませているように感じられた。

しかし、今やその色は微塵もない。それが意味するところはつまり——


「正直なところね、私はアリキーノ家が潰れたことも、第二師団の長という地位を失ったことも何とも思っていないのだよ。むしろ、王家の犬という立場から解き放ってくれたことに感謝すらしている!」


アリキーノはそう言って笑った。

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