Ep.5-76
シャールたちの意識が覚醒してからどれほど経った頃だろうか。ガタガタと揺れていた馬車が不意に停止する。
「やあお嬢さんがた! 俺たち流の馬車の旅はいかがだったかな?」
馬車の幌が開きやたらと明るい声が響いた。その声にシャールとエリシアは縛められた身体をよじりながら、声のする方向を見る。そこには、あの若い盗賊・ロビンが立っていた。そして、その後ろには副団長・ラカムも立っている。
自分たちを見下ろす二人を、シャールは強く睨みつけた。そんな彼女の視線に、ロビンは更にその笑みを深くする。
「良い目じゃねえか! ははは、君らはそうじゃなくちゃあね。何てったって聖剣使いだものな。しおらしく、悲観的な負け犬根性前回の顔でしみったれられてたら商品価値が下がっちまう!」
そう言ってロビンはからからと笑う。その声や言葉は一見すると快活な青年のようにも見えるが、その瞳の光は明らかに自分たちへの侮蔑と敵意の色を湛えていた。
そんな彼に、エリシアは横たわりながら問いかける。
「は、君たちにあの剣の価値を見極められる見識があったなんて、驚きだよ」
エリシアはどこか心底楽しそうな表情で、ロビンとラカムを嘲るような笑みを浮かべる。
そんな彼女の言葉に二人は目を見合わせて、そして高い声で笑う。
「はははははは! 流石は勇者サマだ、気概が素晴らしいじゃねえか!」
そう言って、ゆっくりとロビンはエリシアに近づいてくる。あくまでにこやかな表情のまま、両手を広げて。そして、彼女の目の前に立つと、一際にっこりとした笑みを浮かべて見せた。
そして次の瞬間——
「——クソ女がよォ!」
ロビンの履いた黒い皮革のブーツ、その先がエリシアの下腹部に思い切り叩きつけられ、その柔らかい部分に深く深くめり込んだ。
「う……! ぐ、ぷふぁ……ぁぁ……?」
その瞬間、エリシアはその顔を強ばらせ、全身を痙攣するように震わせ、その場にのたうち回る。
「ァ、くぅぅ……ぐ、ぁぁ……か、はァ……!」
エリシアの口から赤い血と胃液の混じったような複雑な色味の体液が溢れでる。
彼女は表情をひどく歪めながら、それでもキッとロビンを睨みつけた。
そんな彼女にロビンは相変わらずの笑みを浮かべると、何度も何度もエリシアの腹を蹴り続けた。
「あァ……ぐぅ!? あっ……ひぁ……くぅぅ……!」
「そうそう、そうやって勇者様らしく屈しないいい表情を見せ続けてくれよ? そんな君らの表情が、絶望と恐怖に折れて、屈していく過程まで含めて、商品として楽しませてもらうつもりなんだからな」
苦悶に喘ぐエリシアを見下ろしながら、ロビンは嗜虐的に笑う。口から血の混じった唾液をこぼすエリシアを見て、ロビンは一際大きく足を振りかぶり、彼女の柔らかい部分な最後の一撃を叩き込もうとする。
しかし——
「くぅ——ッ!」
エリシアに当たるはずだったロビンの最後の一撃は、彼女には届かなかった。
その一撃を食い止めた者の姿を見て、ロビンは表情を歪める。
そんな彼に、彼女は痛みと怒りに表情を歪めつつ宣う。
「——抵抗できない女性に、一方的な暴力なんて……情けないと思わないんですか?」
彼女は——シャールはそう言って、ロビンをきつく睨みつけた。




