Ep.5-68
「——そろそろ退場願おうかな」
そう言いながら浮かんだエリオスの笑みに、フードの男たちは思わず息を呑んだ。彼らの視線を一身に集めながら、エリオスはゆったりと一歩、前に進み出る。その瞬間に、彼らは思わず後ずさる。
「あはは、ビビりすぎだよ君たち。また、私強くなっちゃうよ?」
「――ッ!」
「とはいえだ。私としては、また君たちを『傲慢』の権能で叩き潰すのも芸がないと思っててね。だから、ちょっといつもとは違う趣向で君たちを屠ろうと思う」
そう言ってエリオスは目を閉じる。そして小さく何事か呟いた。その瞬間、空気がぴしりと軋んだ気がした。しかし、男たちが周りを見渡しても、何も変化はないように見える。
そんな中、エリオスは目を開ける。
「ふん、意外とうまくいくモノだね。初めてやったけど、良い感じだ」
そう満足げにつぶやくエリオスを、フードの男は鼻で笑う。
「は! ハッタリなんざ効かねえよクソガキ! もういい、てめえから仕掛けてこねえならこっちからやってやるよ。おい、てめえら! 仕事の時間だ!」
フードの男の叫び声に呼応するように、残った男たちは太い声で吠える。びりびりと共振する声に、エリオスは耳をふさぎながら、ひどく煩わしそうに彼らを見ていた。
男の一人が刃が禍々しく湾曲したカットラスを振り上げて、エリオスに向かって飛び掛かる。それをエリオスはひらりとよける。
「逃げんじゃねえ! 大人しく斬られとけィ!」
「悪いけど、私には斬られて喜ぶ趣味は無くてね!」
そう言いながら、エリオスは次々に繰り出される剣戟を、踊るようなステップを踏みながら着実に避けていく。そんな彼に向かって、他の男たちも襲い掛かる。剣戟、刺突、打撃。様々な攻撃がエリオスに襲い掛かるが、彼はそれをギリギリのところで避けて見せる。
その様は、あえて危険を演出してショーに華を添える手品師のようで、その全てを見通しているかのような立ち居振る舞いは、武器を振り回す男たちを苛立たせる。
「『――罪悪は枝を伸ばし、邪悪は根を巡らせ、世を悪徳の葉が覆う。虚無にあれども欲は絶えず。貪り食えど虚ろなり。恐れる勿れ、目を背ける勿れ。これに至るは人の悪徳、邪悪の殻。満たされざる欲と悪意の最果て――『物質主義』の獣なり』」
謳うように、目を閉じて。エリオスは濃密なまでの魔力が込められた言葉を紡ぎ切る。その瞬間に、彼の足元の影が揺らいだ。いや、それは本当に影なのだろうか。あらゆる光を飲み込み、まるでそこには何物も存在しない、洞があるような錯覚に陥らせるほどの黒がそこには湛えられていた。
そして次の瞬間、それは床に墨を零したかのように一瞬にして広範囲に広がっていく。男たちは、それぞれに自分の足元に迫ったそれを避ける。
しかし、次の瞬間彼らの表情が凍り付いた。
「な、なんだこれ……何だってんだ……」
彼らの目の前で、真っ黒な影が波打つように揺れる。そして次の瞬間、その影からとぷんという音を立てて何かが立ち現れる。
それは真っ黒い手だった。
エリオスの新しい詠唱の登場です。
なお、これにも普段の権能みたいにルビを振りたいんですけど、ちょっと今考え中です。
出来次第、編集させて戴きます。あと、出来た時点での後書きでもご報告させていただきます!




