Ep.5-66
なんかすごい鼻炎です。
「ふふ、そんな目で見ないで。そんな声をあげないで。もっと強くなってしまうよ?」
エリオスはそう言って、にやりと笑った。そんな彼を見つめながら、フードの男は引きつった表情ながらに、状況の分析を試みる。
「――身体強化の魔術……か?」
「話聞いてた? これは魔術じゃない。私が彼女に与えられた権能だ。さっきも言ったと思うけど、君如きの矮小な知見で私と彼女の間にあるモノを定義付けたり測ろうとするなよ」
唇を尖らせながら、本気で不機嫌そうな声でエリオスは、フードの彼の言葉を一蹴する。そんなエリオスの言葉とは対照的に、フードの男はにやりと笑って見せる。
「おい馬鹿ども! 魔術師が相手だってんならビビる必要はねぇだろ、なぁ!」
フードの男はそう言って笑う。そんな彼の言葉に、恐慌状態に陥りつつあった男たちが徐々に正体を取り戻していく。そんな彼らを見て、エリオスは小さく舌打ちをする。
「強がりは可愛くないよ。尤も、むくつけき野郎共に可愛さなんて求めたりはしないんだけども」
「は、そういうお前こそ強がってるんじゃねえか魔術師。さっき言っていた術式の条件が正しいのなら、自分の力がどんどんと衰えているのは自分がよく分かってるんじゃないのかねぇ」
ねっとりとした声で、そう言ってのける男にエリオスは僅かに表情を歪ませ、歯を食いしばる。そんな彼の表情に、男は確信を強めたようだった。
「さっきは度肝を抜かれたが、タネさえ分かれば怖くも何ともない。は、魔術師なんて所詮はそんなもんさ」
「別に君たちの魔術師観なんて知りたくもないけど、あんまり舐めてると痛い目を見る前に死ぬか、死にたくても死ねないタイプの痛い目を見るよ?」
「は、好きに抜かしてろよ。その方が負けた後の無様さが際立つ」
「あっそ。じゃあまず一発」
そう言ってエリオスは何でもなさそうにしながら、指を一振り。その瞬間、彼の目の前の空間からどす黒く燃える焔の弾が生み出され、真っ直ぐフードの男に向かって飛んでいく。
「燃えちゃえ」
エリオスがそう口にするのと同時に、焔の弾は男に着弾——するかに思えた。しかし、
「残念。効かないんだなこれが」
焔は彼の目の前で砕け散り、火の粉に成り果て、その奥では男がにやにやと笑っていた。
目の前の出来事に、エリオスは思わず目を丸くする。しかし、それに動揺して手を止めることなくエリオスは次の手に打って出る。
エリオスは目の前に手を差し出すと、その場でくるりと踊るように一回転して見せる。その指の先が描く軌道に従うように彼の周りには黒い焔の渦が生まれ、それが一気に男たちに向けて広がっていく。
しかし、その焔の波もまた、男たちに届く前に打ち消され、砕け散る。
そんな目の前で起きる現象に、エリオスは目を細める。
「何をした?」
「——俺たちは何もしてねぇよ。こいつが俺たちを守っているのさ」
そう言って、フードの男は首にかけた金色の細鎖のネックレスを手に取り、その先端にぶら下がったモノをエリオスに見せつける。
それを見た瞬間、エリオスは僅かに表情を歪めた。
「それは……対魔術の護符か」
「その通り。はは、流石は元神官サマの護符だ! 狂っていても効果は折り紙付きってか!」
エリオスの言葉を嘲笑いながら肯定しつつ、男は口の端を醜く吊り上げて嘲りの視線をエリオスに投げつけた。
前書きで、「なんかすごい鼻炎です。ぴえんです」とか言おうかと思ったけどクソほどつまらないので、やめました




