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Ep.5-60

エリオスは浴場を出てゆっくりと来た道を歩き始める。そして考える、これから自分が取るべき行動を。


「まず考えるべきは、アリアが攫われるまでの経過……どのように彼女は狙われ、そして攫われた……?」


口元に手を当てながら、エリオスはそう独り言ちる。

仮説は既に頭の中に組み立てられている。

記憶の断片の中で見たフードを被った男、盗賊の一味と思しき彼は宿屋の近くに潜んでいた。あたりを伺うようなあの立ち居振る舞いを鑑みるに、彼はずっと宿に張り付いて何かを見張っていたのだろう。

では何を見張っていたのか――決まっている、宿屋で見張るのならその獲物は宿の宿泊客以外にあり得ない。

宿泊客を狙った人攫い。確かにこれは効率的だ。宿泊客ならば、いなくなっても村人たちからすればさしたる一大事でもない。「ああ、いつのまにか帰っていたんだな」程度の認識でしかなく、犯行もバレずらい。難点としては、この村に訪れる人間が激減している点があるが、しかしそれもやりようだろう。

あくまでこの村に潜んだ盗賊の役割は、村の警備情報の把握。旅人をさらうのは、一種の副収入のようなものとして位置づけているのなら、理解できなくもない。

掠れた記憶の中で見たあの光景は、きっといつぞやか宿屋に止まっていた訪問者を襲う隙を伺っていた盗賊の姿だったのだろう。

尤も、この仮説が正しい場合、それが意味することは――


「……だとすると、ふむ」


エリオスは、不意に足を止める。明かりの灯る村の方を見ながら、口の端を吊り上げると踵を返して温泉とは逆の方の村のはずれに向かって歩き始める。彼の行く先には畑や家畜小屋が並んでいるが、人の影も明かりもない。

そんな道をエリオスは黙々と歩く。

――アリアがさらわれたときのことを想定する。

一人で温泉に向かったアリア。きっと浴場まで手を出さなかったのは、獲物以外との接触を極限まで抑えるため、そして逃げ場のない空間で確実に捕らえるためだろう。

アリアが一人で温泉に向かうことは昨晩の彼女の行動を見れば明らかで、きっと予測や計画も立てやすかっただろう。そして、賊は彼女の最も無防備なタイミングで襲い掛かった。

エリオスは不意に足を止める。古いレンガ造りの物置たちと居並ぶ家畜小屋に挟まれた小路の真ん中で彼は空を見上げる。星と月が青白く輝いていた。


「――そろそろかな」


エリオスはぽつりとそう呟いて目を伏せ、月明かりに照らされた地面に目を落とす。

――盗賊が宿屋を見張っていたとするのなら、宿泊客をさらうことを役割としている者たちがこの村やその近辺に潜伏しているというのなら、今夜襲われる対象はアリアだけではないはずだ。

見た目は麗しく、身体は華奢で容易く手折れそうな少年――それもまた、十分に獲物として魅力的であるはずだ。

不意に足音が響く。背後から、一つではない土を擦るような音がエリオスの鼓膜を揺らした。続いて、エリオスが見下ろしていた青白い光を映す地面に三つの影が映り込む。

エリオスは視線を上げる。彼の目の前には月の光を背にした男が三人、大きな刃物を構えて立っていた。振り返ると、背後には同じように凶器を構えた男が二人立っている。彼らの顔に浮かんだ下卑た笑みが月の灯に照らし出されてよく見えた。


「大人しくしてもらおうか、クソガキ」


下卑た笑顔を浮かべながら、フードを目深に被った男はそう言った。そんな彼らの言葉に、エリオスは小さく笑って見せた。

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