Ep.5-50
「――俺の名はラカム、組織では副団長を務めている。ま、おっかない団長と自由気ままな部下どもの間に挟まれて難儀するしがない中間管理職だ」
喉の奥で笑いながら低い声でそう答えたラカムにエリシアは尋ねる。
「その自由気ままな部下たちだけど、ボクとこの娘でもうその大半は倒してしまったよ。残るは君たち二人と、そこで片づけをしながらちらちらとこちらを見ている連中だけだ」
「は。まさかここにいるメンツがさっきまでお前たちが相手にしてたのと同レベルだとでも?」
嘲るようなラカムの言葉。シャールはその意味を測りかねていたが、どうやらエリシアにはそれが理解できていたようで、苦笑を漏らす。
「いやいや、よおく理解しているとも。さっきまでの連中は盗賊稼業にしても、戦闘要員としてもズブの素人たちだ。兵隊としての運用も、そういう雑なモノだった。だが、君たちは違う。よく訓練されている――まるで、傭兵団みたいにね」
「ほう。よく見てるじゃねえか」
「お褒めにあずかり光栄だ。だけど、所詮はよく訓練されているだけ。今ここに残っている連中が束になろうとも、ボクらに傷もつけられないでみんな死ぬ。どうだい、ここで大人しく縛につくのがお互い無駄な血と熱量を使わない最適解だと思うけど」
嗜虐的な笑みを浮かべながらそう提案するエリシア。その言葉に、周囲の盗賊たちが殺気立つ。そんな彼らを、片手をあげて制しながら、ラカムはくつくつと笑う。
「威勢のいいことだが……俺たちもおいそれと降伏なんてするわけにはいかなくてな。そんなことしたら、団長に怒られちまう」
「あっそ。じゃあ死ぬ?」
「くっ――ははははははは。物騒だなァ、アンタは。気が強いのは悪くねえがな。とはいえ、ちょっと待ってくれや。お前らに見せたいモンがあってな」
そう言うと、ラカムはちらと傍らのロビンに視線を送る。ロビンはその一瞥で上司の意図を汲むと、背後のテントの中に入る。
「――何、盗んだものでもご褒美としてちらつかせて見逃してもらおうっての?」
「は。本当に口さがないなアンタは。だが、そういうの嫌いじゃない。口調の割に聡いのもポイント高いぜ。ああ、良い線いってるぜ、アンタ」
ラカムの言葉が終わるか終わらないかというところで、ロビンがテントから出てくる。その手には、さきほどまで持っていなかったロープのようなものを掴んでいる。彼はロープの先のナニカをテントの外に引きずり出そうとしているよう。しかし、どうやらそのナニカが動かないようで、彼は乱暴にロープを引っ張ってそれを引きずり出す。
倒れるようにして土ぼこりを上げながら引きずり出されたモノ――それを見た瞬間にシャールは息をのみ、全身が硬直する。
「あ……ああ……」
シャールの震えるような声に、エリシアは眉を顰める。そんな二人の様子に、ラカムとロビンは嗜虐的な笑みを浮かべる。土ぼこりにまみれそこに転がるのは一人の少女。亜麻色の髪を靡かせた――
「アイリ……」
シャールは慄然とした表情でその場に立ち尽くしながら、短くそう零した。




