Ep.5-47
「おっと……これはこれは」
ずいずいと歩みを進めていたエリシアの足が止まる。それに伴って、その後を追いかけていたシャールもゆっくりと足を止めて辺りを見渡す。
乾いた木を焼く炎の音と、その熱に浮かされながらも、シャールは辺りを取り囲む違和感に気がついた。それはエリシアも同じようで、にんまりと笑いながら声を上げる。
「こんな中で隠れてたらアツいだろう? 出てきたらどうだい、君たち」
彼女の声があたりに響くと同時に、目の前の茂みががさがさと揺れる。そして、そこから若い男が現れた。くすんだ色の金髪、童顔気味だがギラギラとした瞳、口の端には軽薄な緩みが浮かんでいる。
「流石にバレるか。いや、中々の観察眼。あるいは野生の本能かな?」
「レディに「野生」だとか「本能」なんて野蛮な言葉を使うなよ。モテ期が滅失するよ?」
「おっと、コイツは失礼。あいにく女日照りの日々なんでね、不躾はご容赦を。久々の良い女を前に、ちょっとアガってるんだ」
男は口角を緩めたまま、へらへらとした口調でエリシアの言葉に応答する。シャールはそんな彼に、言いようのない嫌悪感を抱いた。
「——君がここの統括役? 他の連中とちょっと雰囲気違うけど」
「はは、いやいや。俺はヒラですよ、ヒラ。アンタらがぶちのめしてきた連中とはちょっと出自が違うだけの、ね」
エリシアの問いかけを、男は手をひらひらと振りながら否定する。そんな彼の言葉に、エリシアは目を細めつつ肩をすくめる。
「ふぅん。ま、いいや。全員ぶちのめせば良い話だしね——それで、他のメンツはまだ出てこないの? 燻焼にでもなりたいのかな?」
「おっと失礼、忘れてた。コイツらは俺の合図でアンタらを不意打ちする予定だったんだが……ま、バレてるなら隠れる理由もねぇだろ——出てこい、野郎ども」
彼の言葉とともに茂みから、血走った目の男たちが現れる。その数およそ十人以上、皆手に武器を携え、今にも切りかかりそうな勢い。そんな彼らを前に、シャールは思わず息をのむ。しかし、エリシアは彼らを一瞥すると、苦笑を漏らした。
「――女二人にずいぶんな備えじゃないか。そんなにボクらが怖かったのかい?」
「なんだと!?」
「図に乗るなよ女ァ!」
エリシアの嘲るような視線を突き立てられて、二人を取り囲む男たちは怒りに任せて吠えたてるが、最初に現れた若い男は薄ら笑いを浮かべながら、二人を眺めている。そんな彼の表情に、エリシアは少し不満そうに唇を尖らせた。
「君、やっぱり他の連中と違うよね?」
「さて、な。それより一応聞いておくけど、この人数を前に投降する気とかあるか? あれば、新しい商品として丁寧に丁寧に扱ってやるぜ?」
「悪いけど君たちみたいな小者にボクたちみたいな高級品は手に余ると思うよ」
エリシアの返しに、男は軽く口笛を吹いて楽しそうに笑う。しかし、周囲の他の盗賊にはそんな余裕も内容で、一歩踏み込みながら吠える。
「女のくせに調子に乗るんじゃねえぞ!」
「後で泣いても聞かねえぞ!」
「ロビン、やっちまっていいだろコイツら!」
ロビンと呼ばれた若い男は周囲の逸る血気に苦笑を漏らし肩を竦めながら、口を開く。
「いいぜ。やってやれよ、お前ら――やれるもんならな」
ニヤつきながら放たれた彼の言葉に弾かれたように、男たちはいっせいにエリシアたちに飛び掛かった。
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