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大罪踏破のピカレスク~人間に絶望したので、女神から授かった能力で誰よりも悪役らしく生きていきます  作者: 鎖比羅千里
Episode.2 Reminiscence——The day when the villain was born.
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Ep.2-5

描写の一部が少し閲覧注意気味ですのでご了承ください。

『き、みは―――なんで』


現れた人影、それはかつて少年を虐めていた男児たちの頭目―――あの日少年がその服に火をつけた村長の息子だった。

少年の顔を見た瞬間、村長の息子は一瞬だけニヤリと笑うとすぐさま怒りと悲壮に満ちた表情を浮かべて演説を始める。


『白を切るなんて見下げ果てた男だな、君は。俺は見たんだ。君が森の中で魔獣を―――ああ、見るも恐ろしい巨大な獣を飼いならしている姿を。ああ、あんなに恐ろしいものを見たのは生まれて初めてだ!』


大げさな身振り手振りで、時に天を仰ぎ、時に後方に控える村人たちの方を振り返りながら。まるで舞台俳優がセリフを歌い上げる様に、情感たっぷりに少年の罪状を並べ立てる。


『う、嘘だ! 噓だよ!! だって、僕は森になんか―――』


『―――この俺が嘘をついていると? 次代の村長たる俺がか? 誰が信じるんだそんな戯言!』


『―――ッ!?』


少年は周囲を見回す。家を取り囲む村人たち、彼らの瞳に宿る怒りの炎は揺らがない。村長の息子の言葉を疑う者はいないのだ。ただ少年を身の内に滾る怒りの炎で焼き尽くさんとばかりに睨みつけている。

血の気が引いていく。全身を悪寒が奔り、体中がガタガタと震える。足元の地面が、音を立ててひび割れ消えていくような、そんな感覚。自分の身体を抱きしめて小刻みに震えてうつむく少年に、村長の息子は死刑を宣告する判事のように語り掛ける。少年の耳元で、ねっとりと。その舌で少年の壊れかけの心を舐るように。


『―――もう終わりだよ。お前は、さ。本当に馬鹿なやつだ』


その瞬間少年は悟った―――自分は陥れられたのだと。目の前に立つこいつに。


そこからは早かった。怒りに身を任せ拳を握って村長の息子にとびかかった少年は殴られ、蹴られ、押さえつけられた。

手足を縛られ、口には呪文を唱えられないように枷をはめられて彼は、まるでボロ雑巾のように村の役場の地下牢へと放り込まれた。


そこから2週間、自警団による尋問―――という名の拷問の日々が続いた。青年たちのストレス発散を兼ねた殴打は、彼の臓腑をじわじわと破壊した。爪をはがされ、手指をつぶされ、焼けた鉄を押し付けられたりもした。果ては、村長の息子の命令で服を脱がされ縛られて、男たちや彼らがけしかけた犬に尊厳を穢されたりもした。絶叫し、涙を流して、喉が張り裂けるほどに許しを乞うても青年や村長の息子たちは笑っていた。


そんな苦痛と恐怖、屈辱と絶望の日々が二週間近く続いた。正直に言えば、よく正気を保てていたものだと自分でも感心する。ひとえにこの絶望的な時間の中で彼の心を支え続けていたのは、きっと村人たちは分かってくれる、ちゃんと話を聞いてもらえれば自分が無実だと分かってくれるはずだという希望だった。村長の息子や自警団の青年たちの方こそが正しく裁かれるはずだという、人の世に正義は存在するはずだという無邪気な、或いは無知な信頼だった。


しかし、昨日の夜、その日の拷問を終えて傷だらけの裸体のまま床に転がされた少年は、現実のむなしさを知ることになる―――村長の息子は少年の髪を掴み上げて、嗤いながら告げた。少年の処遇が村民会議で下された決議―――明日の夜、少年は村の広場で火あぶりの刑に処されるということを。


少年の瞳から光が完全に消えた瞬間であった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 逆らえない事と疑わない事は別でしょう いつも虐めていて最近反撃された姿を見聞きしていた村人がみんな揃って村長息子のなんの証拠も無い発言を信じるなんてありえないと思う
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