Ep.5-46
「——うるせぇな」
燃え盛る炎が広がる中、男は細長いパイプを燻らせながら、煙を吐く。吐き出した紫色の煙は、ゆらゆらと赤い空気に溶けていく。
「ふ、副団長ォ——!」
そんな中、彼の目の前にひとりの若い男が転がるように近くの茂みから現れる。荒れた息の若い男を見下ろしながら、彼はその顔に向けて煙を吹きかける。
「落ち着け。落ち着いて話せよ、ロビン」
冷たい瞳と低い声で笑う彼——副団長に、ロビンは息を深く吸って吐く。副団長の言葉に落ち着きを取り戻したロビンは、真っ直ぐに副団長の黒い目を見上げて口を開く。
「副団長、報告します!」
「ん」
副団長はパイプから煙を深く吸いながら、ロビンの言葉に耳を傾けるそぶりを見せた。
「敵の姿、確認取れました。1人は赤い髪の女、もう1人はやせっぽっちの体に似合わない大層な剣を持った小娘——この2人です」
「ふん。連絡通り、だな」
鼻を鳴らす副団長に、ロビンはさらに興奮したような様子で語り続ける。
「赤髪の方はとんでもない強さで、まるで死神でも相手にしてるみたいに、剣も弓もすり抜けて迫ってくる。小娘の方も、赤髪女ほどでは無いですが、二、三人が束になった程度じゃあ捕まえられない。こんなの想定外だ!」
「おうおう、落ち着け落ち着け。連中が強いのは知ってた。だが……強いとはいえ、女二人に野郎どもがこのザマとは——こっちの消耗はどれくらいだ」
白いものの混じった顎の無精髭をさすりながら、副団長は言葉ほどの苛立ちを感じさせない表情で問う。ロビンはその問いに、嘲りの混じった苦笑を漏らす。
「雑兵はまあ、半分以上やられてますね。行き当たりばったりでイケナイ。とはいえ、我々の犠牲はまだゼロです。どうにでもなる」
「ふん、それならいい。いや、そうでなくちゃあな——んじゃ、お前たち制圧の準備だ。じゃじゃ馬どもをここまでご案内してやれ」
唇の端を釣り上げた副団長の笑みに、ロビンはぞくりと背中を這う恐怖にも似た快感を覚える。ロビンは足を揃えると、額の上で副団長に向けて掌を見せるポーズを取って、踵を返す。
「ああ、それと——」
今にも駆け出そうとしたロビンを副団長は呼び止める。ロビンはくるりと振り返り、怪訝な瞳を副団長に向ける。副団長はにやりと笑いながら、問いかける。
「なァ、そいつらは出荷出来そうか?」
短くて、漠然とした問いかけ。しかし、ロビンは副団長の言葉の意味を理解したようで、その幼さの残る顔に下卑た笑みを浮かべて見せる。
「ええ、おっそろしい女どもですが、間違いなく上玉です。どこに出しても恥ずかしくない……いや、どこに出しても恥ずかしくさせられる、いい商品ですよ。尤も、商品として売りに出すには、じっくりと躾けなきゃかもですがね」
「そいつは重畳。間違っても逃すわけにはいかねぇな。おいロビン、ちゃんと道具の用意もしとけよ。チューニングも忘れずにな」
「了解」
指示を受け燃え盛る森の奥へと消えていくロビンを見送りながら、副団長は低く笑う。
「さてと、仕入れの時間だな」




