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Ep.5-44

「――おい、早く荷造りしろ!」

「ッ――火の回りが早ェ!」

「クソ、ちくしょう! 誰の仕業だ!?」


炎燃え盛る森の中、盗賊たちの混乱の声が錯綜する。彼らはそうそうに森の拠点を棄てる決断をしたようで、撤収の準備をしている。しかし、あまりにも早く、不自然なほどに広がる炎に混乱を隠せないようで、いまいち統率がとれていない。


「ちくしょう、あの野郎あんなモン持ってこさせやがって……!」

「とんだお荷物になっちまった……くそ、くそッ! あの野郎ただじゃおかねえぞ!」


怒号、泣き言、混乱、恨みつらみ。木々が燃える轟音に混じって鳴り響く声。そんな混沌の中にあるがゆえに、彼らは気づかない。自分たちの身に迫る刃に。


「――誰だ……お前ら……」


そんな混乱の中、必死で一人火消しに努める年若い盗賊が、炎の奥にゆらめく影を見とめて足を止める。青ざめて、口をぱくぱくとさせながら、手にもっていたバケツを落とす。


「――な、なんだお前ら……まさか、お前らが――あ」


次の瞬間、彼の意識は重い一撃とともに消失した。最後に見たのは、真っ赤な炎の中浮かび上がった、紅い髪と嗜虐的なまでの笑顔だった。



§   §   §



「まずは一人……だね」


エリシアはシャールを振り返ってそう言った。地に倒れ伏した若い盗賊を見ながら、シャールはエリシアの技の流麗さに感嘆の息を漏らす。一瞬で炎を突っ切って盗賊に迫ったかと思うと、次の瞬間には彼の背後に回り込み、ナイフの峰で首筋を鋭く殴打。細腕から繰り出された軽やかな一撃でありながら、男は一瞬でその意識を消失させた。


「すごい……何というか、手慣れてますね」


「あはは……ま、元盗賊だからね。こういう荒事にも慣れてる」


「――この人、どうしましょう」


シャールは、足元に転がった若い盗賊を見下ろしながら、眉根を寄せる。無抵抗な彼にとどめを刺すべきか、わずかに迷いが過る。そんな彼女の顔を見ながら、エリシアは冷たく言い放つ。


「別に放っておけばいいんじゃない? 運が良ければ生き残るだろうし、悪ければ煙を吸って死ぬ。わざわざここでとどめを刺す必要があるようなキャラにも見えないしね――ただまあ、逃亡が気になるのならこうしよう」


そう言って、エリシアはナイフを男の脚に突き立てた。


「――っぐう……!」


気絶したまま男はうめく。エリシアは突き立てたナイフで横一文字の傷をつけると、立ち上がる。


「腱を切ったから、これで遠くまで逃亡はできない。生き残ってもすぐに捕らえられる」


「あ……はい」


血の滴るナイフを振り払ったエリシアを、シャールは唖然とした表情で見ていた。何のためらいもなく人の皮膚を切り裂くその姿に、シャールは恐ろしさではなく不安を抱いていた。これから、盗賊たちを倒していくのに、自分はこんな風に効率的に、迅速にふるまえるのだろうか。

エリシアの脚を引っ張るのではないかと、今更ながらに不安になる。しかし、そんな彼女にエリシアは告げる。


「なに、敵を倒して処理するのはボクの仕事だ。君のやるべきことはあくまで実践の修行――生き残ればそれで良し! なのさ」


そう言って、エリシアは前を向いて、騒乱の只中にある炎の森を駆けだした。シャールは、アメルタートを握りしめながら、倒れた盗賊の脚から流れ出て地面にしみこむ血を見つめる。


「――それで良し、じゃあないですよ。エリシア……だって私、約束したんですから」


シャールは小さくそう零すと、エリシアの背を追って走りだした。

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