表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
295/638

Ep.5-42

「そうだったんだ……仲の良かった子が……」


ディーテ村から件の森まで、街道から少し外れた丘陵をシャールとエリシアは歩いていた。低い草地の中に点在する池沼は、夜の星を映して静かにきらめいている。

少し冷たい夜風が吹き抜ける道程、シャールはエリシアに色々なことを話した。ブローチのこと。それを守ってくれたアイリのこと。そして、彼女が攫われてしまったこと。レイナとの約束。

その全てを聴き終えると、エリシアは全てを理解したように、複雑な表情を浮かべていた。それでも、シャールの頭を撫でながら、優しく微笑む。


「シャールちゃん、君って本当に強い子だ」


「……そんなこと無いです……私、何も守れてない……」


そう言ってシャールはゆるゆると首を振る。しかし、苦笑を浮かべながらエリシアはそんな彼女の言葉を否定する。


「いやいや、少なくとも君は二人の心を守ったよ。レイナさんと、そしてボクの」


「え?」


「レイナさんは君の言葉のおかげで、後一歩のところで踏み止まれた。ボクは、君がボクの失敗を許してくれているからこうして今も君の隣を歩けてる。君の強さって言うのはつまるところそういうものなんじゃ無いかな」


エリシアの言葉にシャールは首を傾げる。エリシアは少し考え込みながら、ふと何か思いついたように口を開く。


「そうだな。例えるのなら、ボクやレイチェルちゃんはそれなりに強い。レイチェルちゃんなんかはあのお堅さや聖剣シャスールの理が示すように、硬くて鋭い研ぎ澄まされた強さだ。そしてボクのはヴァイストが司る炎のように掴みどころがなくて情熱的、だったっけ?」


「エリシア!?」


昨晩のつい口をついて出てしまった言葉をいじられて、シャールは思わず叫び声をあげる。そんな彼女の反応にからからと笑い声を上げながら、エリシアは続ける。


「そんな君の喩えに沿うのなら、きっと君の強さはあらゆる困難や障害を潜り抜けて、先へと進み、光を求める強さだ。ちょうど、植物の芽が重くて暗い土を掻き分けて、日の光に向けて伸びていくような、ね」


そう言ってエリシアはシャールの真っ直ぐな瞳を見つめた。夜空の星と月の明かりを映して輝く瞳を。

そんな彼女の言葉に、シャールは首を傾げつつ、訝しげな表情で問いかける。


「それってつまり……雑草根性ってこと、ですか?」


「なんか違くない!? せっかくおしゃれに言ってあげようと、貧困な語彙力を振り絞ったんだから、そこんところボクの努力を汲んでほしいんだけどなぁ!」


唇を尖らせながらそう抗議するエリシアに、シャールは思わず吹き出した。

そんな時、2人はぴくりと動きを止める。2人の目の前には森が広がっていた。

街道沿いに広がる小規模な森。林というには少し木が密集しすぎていて、中の様子は伺えない。しかし、木々の合間の暗闇から赤い光がいくつも揺れているのが見える。そして、森の奥からは野卑な男たちの笑い声が微かに聞こえてくる。


「この森だね」


エリシアの言葉に、シャールは頷く。森の中の光を見た途端、全身に緊張が走った。


「準備は大丈夫?」


「エリシアこそ。というか、今更ですけど、エリシアもしかしてほとんど手ぶら?」


気持ちが昂っていたせいで村を出てからこっち気がつかなかったが、エリシアはやけに装備が軽い。彼女の戦闘用の装備は腰に佩いた鞘に収まっている聖剣と、あとは見慣れない大ぶりなナイフが一本。あとは、腰のベルトにかけられた小さな拳大の皮袋だけだ。


「買い物とかしたんじゃ無かったんですか?」


「ああ、それはね。ちょっとばかりこの袋が特注品でね——」


そう言ってエリシアは袋に手を突っ込むと、そこから何かを引っぱり出した。それはシャールの顔くらいの大きさの、少しばかり不恰好な鉄製のランタンだった。明らかに、あの袋に収まるサイズでは無い。

目を白黒させるシャールにエリシアは微笑んだ。


「最高巫司に以前仕事を頼まれた時にね、行きがけの駄賃として貰ったんだ。なんでも袋の中の空間を歪める魔術がかかってるらしくてね。なんでも入るってわけじゃあ無いけど見た目以上に色々入るのさ」


そう言うと、エリシアは魔法の袋を再び腰に戻す。そして、取り出したランタンにその場で火を灯すとすぐにその明かりを隠すように覆いをかける。


「さて、シャールちゃん。今からボク、結構最低なことするけど、まあ必要な犠牲と思って許して欲しい」


小声で紡がれたエリシアのその言葉をシャールは即座に理解することができなかった。しかし、元からエリシアはシャールの同意など得るつもりはなかったかのように、彼女の言葉を待つことなくそのランタンを思いっきり振り上げ、そして——


「せいっ」


森の奥に思い切り投げ込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ