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大罪踏破のピカレスク~人間に絶望したので、女神から授かった能力で誰よりも悪役らしく生きていきます  作者: 鎖比羅千里
Episode.2 Reminiscence——The day when the villain was born.
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Ep.2-4

恐る恐るベッドから這い出て扉を開ける少年。次の瞬間、少年の顔は強張った。


『え―――』


扉を開けた先―――そこには怒りに表情を歪めた村人たちが立っていた。

少年は思わず後ずさる。煌々と燃える松明を掲げ、少年の家を取り囲む彼らの手には、剣や槍、弓。鉄製の農具が握りしめられていたからだ。尋常ならざる光景に少年は言葉を失った。

扉を叩いたのは、人一倍筋骨隆々とした青年。確か彼は、村の青年たちのまとめ役。自警団の団長を務めていた男だ。かつて鍛錬中に怪我を負った彼を少年が治癒魔法で治療したことがあった。それ以降、彼は天涯孤独の少年を気にかけて、優しい言葉を掛けてくれていた。しかし今この瞬間、そんな彼の表情は酷く歪んでいた。


『最近、たびたび村を魔獣が襲っているのは知っているな』


青年が重々しい声で少年に問うた。その声には言いようがないほどの、どす黒さがにじんでいた。

血を流し痛みに表情を歪ませていた彼を治療したとき、彼は確かに少年に笑いかけてくれていたのに。優しい笑顔で「ありがとう」と言ってくれたのに。村人たちから距離を置かれてなお、彼に物資を融通してくれたのに。

だというのに、今の彼の表情にあのときの笑顔の片鱗も見られない。憎悪―――否、もはや殺意と呼んで差し支えないような感情すら彼の顔には浮かんでいた。

少年は震える足で何とか踏ん張りながら答える。


『は、はい―――昨日は羊が襲われて』


魔獣の噂は村人たちと距離を置いている少年の耳にも届いていた。

ひと月ほど前から、家畜を襲ったり、柵を壊したりと暴れているのだと。その正体を突き止めようと村長が村の若い男たちによる自警団を結成したが、大した結果は出ず、逆に怪我を負わされた者も出たと。

少年の答えに青年は感情の無い声で淡々と答える。


『ああ、そして今晩は俺の弟が襲われた』


『え―――』


少年の顔から血の気が引く。人が襲われたのは、これが初めてだったのだ。ふらつく少年を見下ろしながら、青年は続ける。


『死んではいない。だが、腕をやられた。アイツは兵士になりたがっていた―――もうすぐ郡の登用試験がある。アイツはそれに合格するために頑張ってきたが―――もう間に合わない。アイツの夢は叶わない』


悲し気な表情を浮かべて男はつぶやくようにそう言った。それでもなお消えぬ彼の顔に浮かんだ憎悪に少年は嫌な予感を覚えた。


『それは―――お気の毒でした。で、でも‥‥‥もしよければ僕が治療を、そうすれば!』


『―――ッ! ふざけるなッ!! この鬼畜がッ!!!』


抑えてきた感情が爆発した、そう形容するにふさわしいほどに彼は激昂した。訳が分からない―――そんな表情をありありと少年は浮かべる。


『―――え?』


ぞわりと背を伝う悪寒。いけない、いけない。まずい、まずい。全身の感覚器官が主人にその身に迫る危機を知らせていた。


『お前が―――お前が魔獣どもを操っているんだろう!! もう分かってるんだよッ!』


『―――そ、え‥‥‥何を‥‥‥え?』


頭が真っ白になった。ナニヲ言ッテイルンダ、コノ人ハ‥‥‥?

誰が? 自分が? 身に覚えなんてない、そもそもそんなことがただの人間に、魔術師にすらまだなりきれていない自分に魔獣を操るなんてことできるはずがない。

呆然自失としながらも、少年は今の自分の置かれた状況を茫洋とながらに認識して戦慄する。

つまり自分は、今魔獣を操って無辜の村人を傷付けた罪人として糾弾されようとしているのだ。少年はそれに気づくと弾かれたように、反論を試みる。


『ち、違う‥‥‥そんなわけないッ!! 僕がそんなこと出来るわけ―――な、何かの間違いですッ!!』


『白々しいッ! 間違いなモノか―――目撃者だっているんだ、諦めろ』


『もく、げき―――?』


いるはずがない。だって自分は無実なのだから。一体だれがそんな出鱈目を―――

次の瞬間、男の背中から一つの人影が現れる。暗がりに浮かびあがったその顔を知覚した途端、少年は状況を理解し、そして絶望した。

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