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Ep.5-35

『お姉ちゃんのそれ、とってもきれいだね』


静かな家の中で、一人の少女が私に問いかける。脚の高い木のスツールの上に腰かけて、脚をぶらぶらとさせながら、亜麻色の髪を揺らしている。彼女は興味津々に胸元のブローチを見つめている。

いつもなら謙遜する私だけれど、この話題についてだけは話が別。口元が自然と緩み、舌もよく回りだす。


『――でしょ? お母さんとお父さんが私に残してくれた私の宝物なんだ』


自分らしくもない自慢げな声を上げて、次の瞬間に後悔する。なんて大人気ない。きっと彼女にはひどく浅ましく見えたことだろう。そんなことを思ったけれど、彼女の瞳はさらに輝きを増して、『すごいすごい』とはしゃぐ。

そして、うっとりとしたような表情で、じっとブローチと私の顔をかわるがわるに見ながら、口を開く。


『ねえ、それってどれくらいだいじなの?』


『んー、そうだなあ。命を懸けられるくらい……なんて言ったら大袈裟かなあ?』


苦笑を漏らしながら、子供にも分かりやすいように少し大げさ目に応えてみせる。呆れられてしまうかもとも思ったけれど、相も変わらず彼女はきらきらとした瞳を私に向けている。そんな彼女の純粋さが私にとっては本当に愛おしい。


『さてと、できたよ。ちょっと不格好でゴメンだけど……どうかな?』


そう言って私は先ほどまで弄り回していたモノを少女に手渡す。少女はそれを手に取ると、花の咲くようなふわりとした笑みを浮かべる。


『――すてき……おひめさまみたい……ありがとう! おねえちゃん』


『あはは……それはちょっと大げさすぎ。でも、そう言ってもらえると嬉しい』


子どもらしい、無知ゆえの大袈裟な表現。それを素直に首肯できないあたり、自分はまだまだ子供なのだろうかと、自分の回答を顧みて思ってしまう。けれども、そんな些事など気にするのは私だけで、目の前の少女は私の言葉ににっこりとほほ笑むと、ポケットの中を探り出す。


『なにかお礼しないと……あ、でも私今何も持ってない……』


『いいよそんなの』


大したことをしたわけじゃあないからと、そう答えてはみたものの少女は到底納得何てしないわけで。


『うう……じゃあ、しゅっせばらいで!』


突然少女の口から出てきたあまりにも似つかわしくない言葉に私は思わず噴き出した。


『そ、そんな言葉どこから覚えてくるの!?』


『え? なんかおかしい?』


心配そうに首をかしげる少女の愛らしさに、私はなんだか色々な事がどうでもよくなってしまってからからと笑いだす。そんな私に向けて唇を尖らせ、少女は指を突き出してみせる。


『むう、信じてないでしょ! いいもん。でも、ぜったいこのお礼はするからね!』


『はいはい。楽しみにしてるよ。それよりも、ね。せっかく作ったんだから、着けたところを見せて欲しいな。私が結ってもいいかな?』


『うん!』


私は立ち上がり、彼女の後ろに立って艶やかな亜麻色の髪に触れる。そして、彼女の髪を丁寧に丁寧に結い上げて、そして最後に先ほど彼女に手渡したモノで仕上げる。


『はい、できた』


私はそう言って、彼女の前に手鏡を差し出す。少女は鏡に映し出された仕上がりを見て嬉しそうに笑う。


『やっぱり、このリボンすっごく可愛くなった! ありがとうシャールおねえちゃん!』


金糸の刺繍が施されたリボンに触れながら、少女はそう言って柔らかく笑った。私もつられて笑った。

これは、私が旅立つ少し前の話。

後ほど、筆者「鎖比羅千里」のTwitterにて、Picrew様にて作成したエリオスとアリアのビジュアルを投稿させていただきます。

オフの日な感じをイメージして作成しております。

ご興味のある方は是非。

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