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Ep.5-34

シャールは植栽の影にしゃがみ込み、じっと小石で描かれた円を見つめる。そして、恐る恐るそれに手をかける。そっと土を撫でるように、丁寧に丁寧に掘り進める。

それはすぐに現れた。黒く湿った土の奥から、白っぽい何かが覗いて見えた。それは麻の布、そして真っ赤なリボン。

掘り出してみると、それは麻布とリボンで作った簡単な巾着袋のようなものだった。震える手でシャールはその袋の口を開ける。


「——あ、ああ……!」


シャールは思わず袋から手を離して口元を押さえる。彼女の手から落ちた袋は地面の上で軽く跳ねると、その中身を吐き出す。

転がり出てきたのは、草木の蔓を象った銀細工の台座に、翠色の大粒の宝石が嵌め込まれたブローチ。母から受け継いだ、思い出の詰まった彼女の宝物。


「うそ……どうして……なんで?」


シャールは動揺しながらも、転がり落ちたブローチを手に取り土の粒を払う。そしてそれを太陽に翳して見せた。日の光の当たり方によって、緑から赤へと色が変わる。その不思議な性質は間違いなく、あのブローチに設られた宝石のものだった。

シャールはどこかうっとりとした表情を浮かべながら、ブローチを眺めていたがすぐに我に帰るとそれをそっと自身の胸元に着ける。その重みが、どこか心地よかった。

かつてルカントたちの旅に出た時は、いつか帰るための決意の証として置いていったものだけれど、今はもう「全てが終わったら帰れる」だなんて希望は持っていないから。

魔王、そしてエリオス・カルヴェリウス——そんな悪辣で強力な存在を、この先自分たちは相手にするのだと知っているから。

だから、シャールはもう二度とこの宝物から手を離さないようにしようと心に決めた。死を覚悟しているからこそ、今度は御守りとして身につけておこうと決めた。

それから、シャールは目線を下に落とす。彼女の見つめる先には、ブローチが入っていた巾着袋。


「誰がこれを……?」


独り言ちながら、シャールはその袋を手に取ってじっと見つめる。見覚えのあるリボン。真っ赤な生地に拙い金色の刺繍が施されている。何かを縛ったり装飾したりするものというよりは、髪留めのように見えた。

でも、感情がぐちゃぐちゃに入り乱れているシャールには、結局それが何かすぐには思い出せない。仕方なくシャールは続けて袋の中を覗き込む。


「これは……?」


そこにあったのは、四つ折りになった小さな紙切れ。シャールはそれを手に取って、丁寧に開く。そこには滲んだインクで記された拙い文字が並んでいた。


『シャールおねえちゃん。これだけしかかくせなかった。ごめんね』


短くて、シンプルが過ぎる文章。しかし、それを見た瞬間に、シャールは思い出す。そして理解した。このリボンがなんだったのか。誰がブローチをここに埋めたのか。

次の瞬間、シャールは居ても立っても居られずに立ち上がり、そして走り出した。庭を飛び出て、自分に突き刺さる視線も構わずに、真っ直ぐに。

言わなくてはならない言葉が、言わなくてはならない相手ができたから。

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