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Ep.5-32

「本当に一人で平気かい、シャールちゃん」


エリシアが不安げな表情でシャールの顔を覗き込む。そんな彼女に、シャールは柔らかな笑みを浮かべて「大丈夫」と応える。

二人がいるのは、焼け焦げたシャールの家だったモノの前。


「ここには、一人がいいんです……」


シャールはぽつりとそう言った。

盗賊退治に出発するのは日が落ちてからなので、それまでに色々と準備を整えることにしていたのだが——自分が一緒では買い物もままならなくなるのではないか。村を歩く中で、村人たちからの敵意と憎悪に満ちた視線に晒される中でシャールが抱いた懸念。

故に、シャールはエリシアに一旦別行動を取ることを提案し、彼女もそれに思うところはあったのだろうが、不承不承ながらに承服した。

その中で、エリシアはシャールに一旦村長の家に戻るようにも勧めた。

しかし、シャールはどうしても改めて見たかった。自分の思い出の詰まった匣の成れの果てを。

珍しく意固地に主張する彼女にエリシアは折れた。昨晩の失策の負い目もあったのだろう。


「一時間くらいしたら戻ってくるから」


そう言い残して、エリシアはその場を後にした。

ちらちらと振り返りながら遠ざかっていく彼女の姿を見送ると、シャールは改めて自分たちの「家」を見つめる。

漆喰の壁も、杉の柱も、格子窓も。みんなみんな黒く焼け焦げていた。


「——ホントに、全部燃えちゃったんだなぁ」


昼の光に照らされた家の残骸の全容を見て、シャールは改めてそんな言葉を漏らした。

シャールはゆっくりと天井のない家の中へと足を踏み入れる。柔らかな灰を踏み締め、脆い炭を踏み砕く。その度に、記憶の中のかつての日々が壊れていく感覚に陥る。それでもシャールは目を閉じることなく、確かな足取りで家の中を歩く。

目新しいものはない。懐かしむようなものも残ってはいない。そんな中、ふとシャールは居間の片隅にある黒い大きな塊を見つけた。それは、母が使っていたオーク材のキャビネット。炭化していたが、位置や大きさからみても間違いなかった。


「そう言えば、お母さんのブローチが……あの中に」


シャールが思い出したのはかつて生前の母がよく着けていたブローチ。父が母にプロポーズするために、わざわざ王都に出向いて購入し、愛の言葉と共に贈った品。幼いシャールに、彼女はそのときのことをよく話していた。大切な思い出の品だと。いつか、貴女にあげるからずっとずっと大事にしてねと。

母と父、二人の想いがこもったその品は両親が死んだあと、それを受け継いだシャールの宝物となった。ときおり身に着けて出かけたりもした。そうすることで、両親と一緒にいるような気がしたから。

ルカントたちと旅立つときにそれをもっていかなかったのは、必ず帰って来るという彼女なりの決意表明だった。危険な旅路に大切な宝物を持っていって、失ったりしたくないという恐れもあった。

シャールは無意識にキャビネットに手を伸ばす。

焼けてしまった家の中にあっても、もしかしたら宝石と金属でできたブローチならば残っているかもしれない。そんな期待と共にシャールはキャビネットに駆け寄る。

上から二段目、真ん中の引き出し。幸い金属製の取っ手は無事なので、シャールはそっと引き出しを開ける。期待と不安に心臓がバクバクと高鳴る。意を決してシャールは引き出しを覗き込んだ。


「――ッ!」


覗き込んだ棚の中、そこには何も入っていなかった。

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