Ep.5-31
「なるほどね……夜陰に乗じて賊の拠点を叩きに行く。いいんじゃない? 行ってらっしゃい」
シャールが村長との話し合いの経過や、その結果を伝えると、エリオスは深くうなずいてからそう言って柔らかく笑った。やけにあっさりとした対応。彼ならば、何かにつけて難癖をつけたり、揶揄ったりしてくるものだと思っていただけに、シャールは拍子抜けする。
「……貴方は、付いてはこないんですか?」
「高々盗賊ごときを相手にするために、聖剣が私にとって未知の反応を示すとも思えないからね。わざわざ夜半に村の外に出たいとも思わない」
「そう、ですか」
尤も、彼がついてきたら盗賊団の振る舞い如何では彼らが皆殺しにされる可能性すらあるので、シャールにとっても彼がこないのは安心材料の一つでもある。
しかし、不意にエリオスは笑みを浮かべて、目を細める。
「ところで、君たちが遠征している間に村が襲われたときのことは考えていないのかい?」
「それは……村長とも話しましたが……できるだけ早く解決したいというのが村長の意向だったので」
「あっそ。でもその表情から見るに、君たちにとっての一種の不安材料な訳だ。ならちょうどいいじゃないか」
エリオスはにまにまとした表情を浮かべながらそう言った。彼の言う意味がいまいち理解できていないシャールが首をかしげる。そんな彼女に、エリオスは告げる。
「察しがよろしくないなあ……私がこの村を守ってあげよう。そう言っているんだよ」
「え――」
「反応ひどくない? いや、うん。まあ自分でも口にした言葉の違和感で炎症が起きそうな気分だけどもね。あ、割とマジで反吐でそう」
そう言ってエリオスは自分の言葉に顔を顰める。冗談なのか本気なのか分からないまま、エリオスは言葉を続ける。
「とはいえあくまでついで、だ。一応私は悪役だけど、それと同時にアリアの従者だ。彼女の行楽にもしっかりと付き合い、それが円満に終わるように気を払わなくてはいけないからね」
「そのついでとして、この村を守る……と?」
「あくまで盗賊からね。もし村人が自分たちで破滅を望むのならその限りじゃないけど」
シャールの問いかけにエリオスはそう答える。
エリオスの言葉、それは一見すると自分たちにとってメリットしかない提案だけれども、シャールはそこに何か裏があるのではないかと勘繰ってしまう。そんな彼女に、エリオスは呆れた表情を浮かべながら唇を尖らせる。
「――ま、信じてもらわなくても結構だよ。どちらにせよ、君たちに私が何かを要求することは無いんだから。不安に思うのなら、さっさとドブネズミどもを駆除しておいで。私がうっかり気まぐれを犯さないうちに、ね」
「……分かり、ました」
そう言って、シャールは踵を返す。エリシアもそんな彼女の後を追おうとする。しかし、そんな彼女をじっとエリオスが見つめていた。その視線に気づいて、エリシアは立ち止まる。
「何だい、エリオス君」
「一応確認しておくけど、準備は大丈夫なんだよね? 昨晩の二の轍は踏まない?」
彼のにやついた表情に、エリシアは一瞬表情を顰めたが、直ぐに皮肉っぽい笑みを浮かべて答える。
「もちろんだとも。大衆の思考なんてのはボクには縁のないモノだったけど、君以外の悪人の思考は馴染み深いモノさ」
「ま、ボクはあくまで『悪役』だからね。でも、それなら一安心だ――精々頑張っておくれよ。勇者サマ」
そう言ってひらひらと手を振るエリオスに、エリシアは苦笑を漏らしながらシャールの後を追った。




