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大罪踏破のピカレスク~人間に絶望したので、女神から授かった能力で誰よりも悪役らしく生きていきます  作者: 鎖比羅千里
Episode.2 Reminiscence——The day when the villain was born.
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Ep.2-3

瞼の裏に浮かんだのは―――記憶。少年の過去。


最初に映し出されたのは3年前―――村の教会で魔力の測定が行われた時の記憶だ。村の子供たちが集められて、内蔵する魔力量を計測し、国が強力な魔術師の卵になり得る人材を見出したり、あるいは把握するための行事。


ああ、あの時が考えてみればきっかけだったのかもしれない。あの時、少年は自分が村の同年代の―――いや、もしかすると村の誰よりも強い魔力を持っているということを知った。


その時は嬉しかった―――いじめられがちで、自信を持てなかった自分に初めて人と違う「才能」があることを知ったから。自分にも価値があると知れたから。

とはいえ村という小さな共同体のなかで一番強い魔力を持っていたというだけ、誇るにも誇り切れない半端な力でしかない。だが、そんな少年を周りの大人たちは「将来は魔術師かな」とほめそやしてくれた。そんな彼らの言葉は純粋に嬉しかった。


少々舞い上がったのは認めよう。だが、少年はそれ以上に気を引き締めて、その才能を活かすための努力を重ねた。魔術に関する書物を集めたり、森の奥で自分で練習をしてみたり。旅の魔術師が来た時には、引っ込み思案な自分を鼓舞しながら、魔術師になる方法を聞いたりもした。誰かを助けられる立派な魔術師になりたかった。そうやって自分の価値を見出したかった。


だが、思えばそれが癇に障った人間もいたのだろう。

瞼の裏の光景が急に霞はじめ、そして霧散した。


次に映し出された記憶はそれから一年ほど経ったころの光景。

村の空き地で地べたに転がる少年の姿。周りを取り囲むのは自身と同い年くらいの村の男児たち。そしてその中でも飛び切り威張った男児が地べたでうずくまった少年の腹に思い切り蹴りを入れる。村の大人たちはその様を遠目に見ながらも何もしない。止めることも、声をかけることすらない。


薄情な―――そう思えるかもしれない。しかしそれはこの村にあっては当然のことだった。主犯格の男児は村一番の金持ちだった村長の息子―――大人ですら、彼に下手に逆らうことはできなかった。かねてより少年は彼の率いる男児連中にいじめられていたが、ここまでの暴力を振るわれることはなかった。いつもであれば小突かれたり、脚をかけられたりする程度。だというのに、この日の彼はどこか様子が違っていた。

その目には、これまでのような軽蔑や嘲弄の色ではなく、明確な憎悪が浮かんでいた。


推測ではあるが、彼にとっては見下していた少年が村一番の魔力の才能を持っていたことが気に食わなかったのだろうか。あるいは生真面目に魔力行使の鍛錬を行っているその姿が癇に障ったのか。


『―――やめて』


記憶の中の少年が叫んだ。その瞬間、空気が震え、主犯の少年の服に火が付いた。小さな、小さな火種。しかしそれは徐々に燃え広がり、少年を取り囲んでいた男児たちは蜘蛛の子を散らしたように逃げ去っていく。主犯の男児も慌てて服を脱ぎ捨てて、泣き出しながら駆けて行った。

少しだけスカッとしたのを覚えている。


その日から、少年がいじめられることは無くなった。だが、それと同時に村人たちの彼を見る目は確実に変わってしまった。自己防衛のためだとはいえ、意図してなかったとはいえ、少年は魔術で人を攻撃してしまったのだ。噂は広がり、次第に少年は村の中で孤立していったのだ。


そして次に現れたのはいまから半月前の記憶。

両親は死に、一人村のはずれに残された家で暮らす少年の姿。

樫で出来た玄関の扉が、家全体を揺るがすほどに、強く激しく叩き鳴らされる。ベッドの中で眠りについていた少年の心臓はその音を聞いた瞬間にどくりと鳴る。真夜中のはずなのに、雨戸の向こうからは目を刺すような赤い光が漏れ出ていた。

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