Ep.5-24
再び二人だけになった部屋の中、エリシアとシャールは改めて向かい合う。気恥ずかしさと気まずさによる沈黙が再び二人の間を支配するが、先んじてエリシアがそれを破る。
「えっと……あの、こういうとき何て言うべきなのか分からないんだけど……改めてごめんなさい、シャールちゃん」
エリシアはそう言って頭を深く深く下げる。それを見て、シャールはびっくりとしたような表情を浮かべておろおろとし始める。
「え、エリシア様!? そ、そんな! 顔を上げてください!」
狼狽するシャールの顔には、先ほどまでエリオスと対峙していた時の毅然とした表情も、凛々しさも鳴りを潜めてしまう。エリシアはゆっくりと頭を上げると、顔を真っ赤にしながら目を白黒させるシャールを見つめて、ふわりと花の咲くように笑う。
「……それと、ありがとう。人としての一線を越える前に、ボクを引き戻してくれて」
そう口にした彼女の目の端にはうっすらと涙が浮かんでいた。シャールがそんな彼女の涙に動揺を見せると、エリシアは苦笑を漏らして涙を拭う。
「はは、ホントつくづくボクは勇者なんていう御大層な肩書きに合う人間性じゃあないな……簡単に、エリオス君にも弄ばれるし、頭も良くないし」
そう言って、エリシアはそっと聖剣に触れる。ヴァイストは未だに仄かな熱を帯びていた。エリシアは剣を抜き、その赤い刀身を見つめる。
「ひねくれ者め——君は、なんでボクなんかを選んだんだろうね。偶然? それとも君をずっと閉じ込めてきた聖教会へのあてつけだったりしたのかな?」
「——きっと、必然だったんだと思います」
寂しげに笑ったエリシアを見て、思わずシャールは口を開いていた。しかし、すぐに出過ぎたことを言ってしまったと思って俯く。そんな彼女にエリシアはつかつかと歩み寄り、そしてその手を取る。
「どうして? どうして君はそう思うんだい?」
「あ、えと今のはつい口に出てしまったというか……いや、あはは……私の浅はかな言葉なんて聞いても意味なんて……まともな根拠なんて何もないですし」
目を逸らしながら、どこか卑屈な苦笑を浮かべるシャールに、エリシアは首を横に振ってその言葉を力強く否定した。そして真っ直ぐにシャールの瞳を覗き込む。
「聞かせて。君の言葉なら、きっとボクは納得できる」
切実ともいえるようなエリシアの表情に、シャールはわずかに困惑した表情を浮かべながらも、覚悟を決めたように、それでいてどこか恥ずかしそうに口を開く。
「あくまで私の独りよがりな推測ですけれど、貴女はとても暖かい人だからヴァイストに選ばれたんじゃないでしょうか――だって、貴女は誰かの隣で、誰かのために怒って泣けるような人ですから」
そう言ってシャールはどこか照れ臭そうに、それでいて真っすぐにエリシアを見つめながらはにかんで見せた。




