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Ep.5-22

「ぼ……ボクは……うぅ……」


エリシアが呻く。抗うように、苛まれるように。エリオスの声はそんな彼女の魂を舐り、痛めつけるように、それでいて愛玩するように艶かしく彼女に纏わりつく。


「何を躊躇うんだいエリシア? 彼らには罪があり、その聖剣は穢れを焼き清める『焼浄』の理を司るんだろう? 彼らの罪を、愚かさを——君が裁かないで誰が裁く? 君が彼らに贖わせるんだ、そして君が贖うんだ……そうすべきだと、思わないかい?」


エリシアは全身を震わせながら、必死でその言葉に抵抗するように歯を食いしばる。それでも、本能はエリオスの言葉に籠絡され、じわりじわりと聖剣に手が伸びる。エリオスはそんな彼女の手を見下ろしながら、そっと彼女の耳元に顔を寄せる。


「君は酷い師匠だったけど、これはそれを挽回するチャンスなんだよ? ねぇ、エリシア」


その言葉に、エリシアの心臓がどくんと強く脈打った。もはや彼女の理性はエリオスの最後の言葉に瓦解した。聖剣に伸ばした手はもはや止まらない。エリシアは聖剣を握りしめる。その瞬間ヴァイストの魔力が励起するのを見て、エリオスは目を細める。

しかし——


「いいえ。それは違います」


凛然とした声が響いた。その声に弾かれたように、エリオスとエリシアはびくりと震えて動きを止める。二人の視線の先、そこにはシャールが立っていた。

涙の跡でひどい顔だけれども、その目は真っ直ぐにエリオスとエリシアを睨みつけている。


「エリオス、エリシア様の心を玩弄するのはやめてください」


「——玩弄だなんて人聞きが悪い。私は彼女の心の奥で絡まった本心を解きほぐし、自由にしてあげようとしただけだよ」


エリオスはどこかつまらなさそうな、拗ねたような表情を浮かべて、唇を尖らせながらそう嘯いた。


「いいえ、貴方はそうやって彼女の心の柔らかい部分に爪と牙を突き立てて弄んでいる。どうせ、その方が『悪役らしい』とでも思っているんじゃないですか?」


引き絞った弓のように真っ直ぐに自身を射抜くような視線。それを見てエリオスは肩を竦めて苦笑を漏らした。


「ふふ、なんだ。バレてた?」


「隠す気なんて無かったでしょう、エリオス」


「まあね。うん、君の言う通りたまには『人の心を弄んでダークサイドに引き摺り込む悪役』っていう振る舞いをしてみようかと思ってね……でも、君たちが悪いんだよ? あんな素敵な喜劇を見せつけられたら、こんな素敵な顔を見せられたら……悪役(わたし)がこうしたくなるのは必然だろう!?」


悪びれるでもなく、むしろ真剣そのものといった表情を浮かべながら熱弁するエリオスに、シャールは嫌悪感とも諦観ともつかないような表情を浮かべる。


「貴方の趣味に興味はありませんし、それに私たちを巻き込まないでください。それと一つ撤回を要求します」


「……なんだい? 言ってごらん」


「——エリシア様は酷い師匠なんかじゃありません」


シャールは短く、それでいて万感を込めて。毅然とした表情でそう言った。

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