Ep.5-18
此処に至るまでの経緯を考えれば、この零落の原因が誰にあるのかなんて言うのは明らかだろう。
世界を救うための過酷な旅路に就いたシャールの存在を、勝手に偶像として祭り上げ自分たちの利益のために、我が物顔に扱った村人たち。
自分の功績でもないのに傲慢に思い上がりそれを利用した彼らの姿勢にも問題があったはずだ。その傲慢さが、周囲の村からの嫌悪感を集めていたのだろうから。
彼女が自分たちの村の出身であることを吹聴して回った彼ら自身にもこの事態を招いた責任はあるはずだ。だって、彼らがそんなことをしなければ、彼女の出身なんて分からなかったはずなのだから。
エリシアは、村人たちはそれを口にしないまでも自覚していると思っていた。
こんな言い訳まともに通じるはずがない。
こんな無茶苦茶な論理を本気で正しいと思う人間なんているはずがない。そんなのは誰の目にも明らかだろう。
だからこれはきっと口先だけのもので本心は別にあるんだと、エリシアは思っていた。この零落は、自分たちの責めに帰すべきものだと思う心があるはずだと。
だからきっと、きっかけがあれば、シャールと村人たちは分かりあえると思っていた。
「一時だけ、君は村人たちから責められて辛い思いをするかもしれない。でも、きっとその先で君たちは互いに分かりあうことが出来るんだと思っていた……村を襲う賊を倒すのがそのきっかけになると……そうなるのなら、その痛みも君のために必要なモノとなるはずだと思って……だから、ボクは君を連れてきた。でも——」
でも、違った。彼らは本気でシャールだけのせいでこうなったと思っていた。
自分たちを悪かったと認める気持ちなんて一片たりとも持っていなかった。だから、彼らは彼女に簡単に「死ね」と言える。だから彼らは彼女の大切なものをためらいもなく奪える。
彼らの唱える粗雑な論理、誰の目から見ても破綻した言い訳は、彼らの中では完成されたものだった。
完成されているから、彼ら自身がそれを疑う余地は無いし、誰かがそれに手を加える余地もなかった。
そのことをエリシアは気が付くことが出来なかった。否、そんなことがありえるなんてことを、エリシアは知らなかった。
「ごめん、ほんとうにごめん……ボクは、甘い考えで……君をただ傷付けただけだった……本当にごめん……許してくれなんて言わない……君が顔も見たくないというのなら、もう二度と君には近づかない……」
「――エリシア、さま……私は……」
泣きはらした顔を上げてシャールはエリシアを見つめている。彼女は星空を見上げていた。でも、きっと彼女の目には星も月も映っていないのだろう。だって、その目はシャール以上に涙にあふれていたから。シャールはエリシアの顔に手を伸ばす。しかし――
「――ッ! 誰だ!」
エリシアは突如立ち上がり、剣を抜いて振り返る。シャールもそれにつられて振り返る。その剣の先には一つの人影が立っていた。涙に揺らぐ目をこすりながら、シャールはその人物をじっと見つめる。白髪交じりの穏やかそうな表情をした壮年の男性だった。シャールはその人物を視認して、思わず声を上げた。
「――村長」
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