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Ep.5-17

泣き崩れたシャール、彼女の隣で怒りを叫ぶエリシア。そんな二人を、村人たちは相も変わらず憎悪と嘲笑の目で見ていた。


「なんだアイツ、シャールを庇うなんて……アイツの仲間か?」

「ねえ、せっかくあの娘が帰ってきたのよ。誰か捕まえなさいよ」

「そうだそうだ、アイツを捕まえて処刑しちまえ」

「そうすれば、アイツと俺たちに繋がりが無いって証明できる!」


そんな声が聞こえるとエリシアはゆらりと立ち上がる。そして剣を抜き、それを地面に突き立てた。その瞬間、エリシアの足元から村人たちに向けて、放射線状に赤い炎が地面を奔った。


「ひ、ひい!? な、なんだ!?」

「ま、魔術か!?」

「アイツ、俺たちを攻撃しやがった!?」


口々に騒ぎ立てる村人たち、そんな彼らを振り返りエリシアは口を開く。


「黙れ――もう黙れよ、君たち……次は村ごと焼き尽くすから」


低く、不気味なほどに穏やかな声でエリシアはそう告げた。その言葉と彼女の表情から、その脅迫は虚言などではないと悟ったのだろう。村人たちは一目散に自分たちの家へと逃げ帰った。

それを見届けると、エリシアはシャールのとなりに座り込む。シャールはまだ泣いていた。大声を上げるように泣くことはもうなかったけれど、それでも静かに密やかに泣いていた。


「ごめん……シャールちゃん」


エリシアは星の煌めく空を見上げた。

シャールは何も答えない。それでもエリシアは、淡々と唇をかみしめながら続ける。


「ごめん……ボクのせい、だ」


「そんなこと……ない、ですよ……」


「ううん。ボクのせい――だって、ボクはこういう風になることを知っていたんだから」


震える唇から紡ぎ出した、告白――いや、懺悔だろうか。エリシアはいつものような軽薄さを潜ませて、更に空を高く見あげる。シャールは何も応えない。その無言の意味が分からないままに、それでもエリシアは話し続ける。


「正直に打ち明けるとね――この村に下見に来た時点で、君がエリオスの下にいることが知れ渡っているのは知っていた。それが原因で村に不利益があったことも。門番の彼が言っていた君の『裏切り』、その中身については知っていたんだ」


エリシアが以前にこの村を訪れた時、一刻前後のほんのわずかな滞在時間ではあったけれど、調査の主題でもない村人たちのシャールへの恨みつらみは自然と感じられた。

村人たちは聞きもしないのにかつての栄華を語り、それと同時にその栄華を奪い、零落をもたらした者としてシャールの存在を語っていた。

それゆえに、エリシアはシャールがこの村にくれば、敵意の目に晒されるということは分かっていた。それでも――


「それでもね……ボクは君が村の人たちと和解できると思っていたんだ。彼らの身勝手で自分の行いを棚に上げた自己弁護――でも、それは裏を返せば、彼らにも責められるべきところがあって、それを覆い隠すために過剰に君への恨みつらみを口にしているんだ。そんな風に思っていた。自分たちの心を守るために」


「だから、君への憎悪なんていうのは赤の他人への口だけの強がりみたいなものだと思っていた。君と対面すれば、そんなことは口にできないだろうと。だからこそ、君と彼らには和解の余地があると思っていたし、そうすべきだと思った」


エリシアはそう悲しげに告げた。

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