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大罪踏破のピカレスク~人間に絶望したので、女神から授かった能力で誰よりも悪役らしく生きていきます  作者: 鎖比羅千里
Episode.2 Reminiscence——The day when the villain was born.
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Ep.2-2

「―――あ」


無我夢中で駆けた先、少年は再び立ち止まる。目の前に佇んでいたのは苔むした巨石でくみ上げられた古い遺跡だった。

―――こんなモノがあるなんて‥‥‥

少年は自身の状況も忘れてしばし絶句し立ち尽くす。

均整のとれた石柱、経年により多少の劣化はあるが整然と並べられた石畳。そしてそれらの先に堂々と鎮座しているのは重厚な石の扉。飾りは少なく、シンプルな表面はそれゆえにある種の威圧感すら感じられる。

呼吸をするのも忘れ、遺跡に魅入られていた少年だったが、次の瞬間、ぐらりと視界が揺らぐ。身体がふらつき、息が荒い。

足元をみると、いくつもの傷口から赤黒い血がどくどくと流れだしている。まずい、止血をしないと。霞がかった思考回路を動かしながら少年は石扉を見つめる。


―――この中でなら

少年は歯を食いしばり、出血の止まらない足を引きずりながら石扉の前に辿り着く。重厚な石扉を非力な自分が開けられるかが気がかりではあったが、それを杞憂とあざ笑うかのように石扉は思いのほか軽く押しただけですっと開いた。

身体を引きずり、なんとか遺跡の中へと転がり込む少年。


「―――血、血を‥‥‥とめ、なきゃ‥‥‥」


絶え絶えの息を漏らしながら、少年は独り言ちる。しかし急速に身体の自由が失われていく。少年は冷たく硬い石の床の上に倒れ込んだ。出血だけではない、疲労や精神的なストレスも相まって彼の身体は極限まで痛めつけられていた。手も、脚も、頭も。まるで鉛でも流し込まれたかのように重くて、微塵も動かない。


「あ‥‥‥だ、めだ‥‥‥はや、く‥‥‥しな、い‥‥‥と」


もはや言葉すらおぼつかない。舌が回らないだけでなく、もはや思考すらままならない。

次の瞬間、背後から石の擦れあう音がし、バタンと遺跡全体を揺らすような音が響く。それと同時に少年の視界から一切の光が消失した。


「あ‥‥‥ああ‥‥‥あああ」


『―――赤ん坊みたいな情けない声出さないでくれるかしらぁ?』


脳裏に声が響く。どこかで聞いた声―――また幻聴か?


「だ‥‥‥れ‥‥‥? だれ、か‥‥‥いるの?」


『ふうん。遠目には見たけど、本当に面白い人生してるのね、アンタ』


―――面白い? 冗談じゃない、何が『面白い人生』だ。そんな愉快なものだったなら自分はこんなところでみっともなく転がっているわけがない。誰だか知らないが知ったような口を聞いてくれるな。思考もままならないのに怒りだけがふつふつと沸き立つ。


「ふ、ざけ‥‥‥るな」


『―――ッ! ああ、なるほど。そうねぇ、言い方が良くないわね「面白い魂の構造」、とでも言うのが正しいのかしら。他意はないわ』


魂? 何を言ってるんだ? 揶揄っているだけなら放っておいてくれ。もう何も見たくないし、何も聞きたくないし、誰とも話したくない。

―――いや、違う。問題はそこじゃない。


「アン、タは‥‥‥なんだ‥‥‥? 何、もの‥‥‥なんだ?」


『―――おー、ようやくそこに気が向いたのね。うん、そうね―――私のことは「神」とでも思って、軽く崇めておきなさい』


神? ふざけているのか。いやこんなそれらしい遺跡にいるのなら、そう言うこともあるのだろうか。少なくともヒトではない、それを超える存在―――そんな気がする。まあ、たとえ神だったとしても、蛮神邪神の類かもしれないが。


『まあ、私のことなんて正直どおでもいいのよねぇ、今は。それよりか、アンタのことを聞かせてもらうわ』


「な、にを‥‥‥?」


問いかける少年の言葉に、闇に響く声は応えない。次の瞬間、少年の髪が掴まれ頭が無理やりに持ち上げられる。


「―――あ、いた‥‥‥ッ!?」


『とはいえ―――そんな風にだらだらと喋られてたら堪らないからね。悪いけど見せてもらうわ、直接ね』


少年の額に冷たく柔らかいものが押し当てられる。次の瞬間にその感触は熱っぽい自分の肌に融け、頭蓋を越えて脳髄に染み渡っていく。異質なものが流れ込んでいく感覚、激痛とは似ているようでいてどこか違う。


「あ―――ああ、あああああああッ!」


目の前が霞む。いや違う、もともと漆黒に塗りつぶされていたはずの視界が別のモノに侵食されていく。

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