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Ep.5-13

「お前……どの面下げて帰ってきたんだ? この裏切り者」


吐き捨てられたその言葉をシャールは理解できずに硬直した。発せられた声音も、それが紡いだ言葉の一つ一つの意味も理解はできているのに、それを自分に向けられた意思として理解することを本能が拒んでいた。それでも、シャールの身体からは熱が急速に引いていく。

シャールは、唇を震わせながら門番の二人を、同じ村の住人だった二人を見る。


「――え、あれ……あの、私……」


「うるさい黙れ。お前の声なんて聴きたくない、お前の顔なんてもう二度と見たくなかった」


「え……あ、あれ……」


「卑怯者、裏切者。何をへらへらと笑っているんだ……お前なんて、死んでしまえばよかったのに」


シャールが何かを言う間も与えずに、男たちは矢継ぎ早に憎悪を凝縮させたような言葉を、投げつける。シャールは不意打ちじみたその言葉に抵抗することも、精神を防御することもできなくて、その場に立ち尽くした。何が起きているのか分からない。でも、心だけは確実に、じわりじわりと殺されていく。そんな状態。目の焦点が合わなくなる。視界を侵食する篝火の光が、まるで自分を焼き責めているような感覚に襲われる。


「――き、君たち! なんてことを……!」


エリシアが唇を震わせながら叫び、門番の一人の胸倉をつかむ。その力はすさまじく、彼の身体は半分宙に浮いていた。それでも、門番はシャールに燃え滾るような悪意に満ちた視線を向け続ける。そして、ちらとエリシアを一瞥すると舌打ちを一つ。


「――アンタもアンタだ、エリシア。なんでコイツとアンタが一緒にいる、なんでコイツを連れてきた?」


「だって……彼女はこの村の出身で……勇者の一行にも選ばれて――」


「ああそうだ。こいつはこの村で生まれた。そして王都の王子様に見いだされて旅の一行に加わった。それを俺たちは大手を振って見送った。村の誇りだと皆が勘違いした……いや、コイツに騙されていたんだ」


「君たちは……何を……? どうして彼女のことをそんなに……」


エリシアは呆然とそう呟きながら、宙づりにしていた門番の男から手を放す。男は地面に崩れ落ち、首元を抑えてせき込みながらも、刺し貫くような視線を二人に向ける。そんな彼らの目を見て、エリシアは激しく動揺する。彼らの敵意は濃密で、薄っぺらさなど感じさせない迫真さを帯びていた。

エリシアはそんな彼らを見てひどく沈んだ声で呟く。


「どうしてなんだ……彼女が……彼女が一体何をしたって言うんだ……」


「言っただろう。そいつは俺たちを、いやこの国を裏切ったんだ」


「――ッ!」


男の言葉を聞いた瞬間、シャールの脳裏にはある記憶がよみがえる。レブランクの王都マルボルジェの王城、そのテラスから広場に集まった人々を見下ろしたときの記憶。隣に立っていたのはファレロ王と、上級貴族たちと、そして――この国を滅ぼした少年。


「――お前は俺たちの期待を、信頼を裏切った。挙句の果てに命惜しさにこの国まで売った悪魔だ。そうだろう、シャール。お前はこの世で一番醜い裏切り者だ」

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