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Ep.5-11

夜の帳が落ちだして、宙に青い星が輝きだした頃、見覚えのある景色が近づいてくる。

青黒く南北に延びる山脈、低い草が生い茂る草原に点在する沼地は月と星の光を映して輝いていた。ほんの一年ぶりくらいでしかないはずなのに、この景色がひどく懐かしく心に響いて、シャールは自分がかつてと比べて、ずいぶんと遠いところに来てしまっているのだということに気付いた。


「――もうすぐ、ディーテ村です」


「だね。うん、村の光も見えてきたね――それじゃあ、いったんこの辺りでお別れだ」


エリシアはそう言ってエリオスをちらと見遣る。エリオスは彼女の言葉に小さくため息を吐いてから、馬車のガラス窓を軽くノックする。次の瞬間、ゆっくりと馬車が停止する。


「――それじゃあ、降りようかシャールちゃん」


「え? エリオスたちはどこに……?」


シャールはどこか不安そうにエリシアとエリオスをかわるがわるに見つめる。そんな彼女にエリシアは苦笑を漏らしながら答える。


「いやいや、彼らもちゃんとディーテ村に行くよ。でもほら、彼ってばレブランクを滅ぼした張本人じゃない? だからね、まあちょっとした配慮みたいなもので、別々に村に入ろうって話になっただけさ」


いまいち煮え切らない、はぐらかしたようなエリシアの答えにシャールは眉根を寄せる。しかし、きっとエリオスもエリシアもこれ以上問い質しても答えてはくれないのは何となく理解できたので、シャールは大人しく頷いた。


「それじゃあ、ここからちょっとばかり歩くようになるけど大丈夫かな、シャールちゃん。ホントはボクらが馬車に乗って村まで行ければ良かったんだけどぉ……」


じとっとした目でエリシアは窓の桟に肘をつくエリオスを見つめる。そんな彼女の言葉をエリオスは鼻で笑って一蹴する。


「この馬車は私のものなんだから、私が最後まで使うのは当然だろう? それに、私のご主人様に長い距離を歩かせるなんてお断りだ」


「ホント、アリアちゃんに対してだけは過保護だよね。君」


眉間に皺を寄せながら皮肉っぽく笑うと、エリシアは立ち上がり扉を開く。シャールもその後に続いた。

外へ出ると、シャールは深く息を吸う。湿った土の匂い、草の匂い。吹き渡る風の涼やかさ、澄んだ空気。五感で感じる全てが懐かしく、遠い。


「それじゃあ、また後ほど……」


そう言って馬車の中のエリオスはドアを閉め、再び馬車のガラス窓をノックする。その瞬間、再び馬は走り始め、真っ直ぐに街道を駆けていく。

その先には、煌々とした赤い光を一定間隔で灯した村が見える。その周囲には物々しく、侵入者を拒絶する鋭い杭の垣根。かつてとはあまりにも様変わりしたディーテ村を見て、シャールの心臓がどくんと強く脈打った。


「さて、それじゃあ行こうか。シャールちゃん」


エリシアはそう言って手を差し伸ばす。シャールは唇を噛み締めながら、その手を取った。

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