表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
263/638

Ep.5-10

エリオス、アリア、シャール、エリシアの四人はその日の午後、いつもの馬車に乗り込んで館を出た。あまり速度を出せない馬車を使うと、ディーテ村までは半日弱かかる長い旅路だ。アリアは早々に馬車の窓にもたれながら、静かな寝息を立て始めていた。

揺れる馬車の中、窓の外を眺めながらシャールは高鳴る自分の心臓の鼓動の煩さに辟易としていた。

もう一年近く帰っていない故郷、ディーテ村。

今、あの村はどうなっているのだろうか。そんな不安とも懸念ともつかない焦燥にも似た感覚がシャールの胸を掻きむしっていた。

彼女が気にしているのは、単なる時間の経過による変遷だけではない。レブランク王国の滅亡、権力の消失という事象が本当に故郷の村にまで影響を及ぼしているのか。そうだとしたら、それはどれほどの影響だったのか。

誰かが傷ついていないか、誰かの命が損なわれていないか。そんな不安が時折頭をよぎる。

そして、それ以上に彼女の内心に通奏低音のように響くのは、何かを成し遂げることもなく帰ってきた自分を、村人たちは受け入れてくれるのかという不安。否、これはもはや恐怖という域にまで来ているやもしれない。

拒絶されるかもしれない、軽蔑されるかもしれない。そんなどうしようもない不安が、何度もぶり返すように脳裏に浮かんでくる。

そんな風に、時折死にそうなほど追い詰められた表情を浮かべるシャールを見て、エリシアは苦笑を浮かべる。


「不安なのは分かるけどね、そんなに思い詰めるものじゃあないよ」


「あ……はい。そう、ですよね。私ってば……はは」


悪い予想、あるいは妄想を重ねて底なしの不安という谷へと沈没していくシャールを、現実へと引き上げるようにエリシアは時折声をかけるが、シャールから帰って来るのはこんな身の入っていない生返事ばかり。数分後にはまた、同じような暗く沈んだ表情に戻っている。


「——君、故郷の村にそんなに嫌な思い出でもあるのかい?」


「え?」


不意にそれまで沈黙を守っていたエリオスが声をかけた。シャールは問いかけの中身もそうだが、何よりエリオスがシャールの内心を慮るようなことを尋ねてきたこと自体に驚きを感じていた。

エリシアは少し不満げに、睨むような目をエリオスに向けていたが、彼はそれを無視して言葉を重ねる。


「だってそうだろう? 里帰りを前にそんなに思い詰める人間がいたら、誰だって『本当は村に帰りたくないんじゃないか』『村で嫌な思い出があったんじゃないか』と思うだろう?」


心配ゆえに、というわけでは断じて無いのだろうけれど、エリオスが自身の感情に気を払っているという事実にシャールはどこか不思議な感慨を抱いていた。

だが、それはそれとしてシャールはゆるゆると首を横に振る。


「——そんなことはありません。むしろ、逆です」


「逆?」


「私はすごく恵まれていました。すごく皆さんに気遣ってもらっていました」


自然と、彼女の表情に笑顔が戻る。


「私は両親を亡くして、独りぼっちで暮らしていました。そんな私を、村の人たちは本当によく気遣ってくれて……毎日『大丈夫?』とか『困っていることはない?』と尋ねてくれましたから。嫌なことなんて、何も無かったんです」


「——ふぅん」


「それに、私がルカント様に見出された後、どうすべきか相談したら皆『貴女にしか出来ないことだから』『世界のためになる素敵な役目だ』って言ってみんなで背中を押してくれたんです。『頑張って』と応援してくれたんです」


そこまで言うと、シャールはふいに口を閉じて目を伏せる。


「だからこそ、皆が応援して、期待してくれたからこそ……私は怖いんです。そんな皆の想いを裏切って、世界を救うでもなくのうのうと生き残ってしまっていることが」


「シャールちゃん……」


エリシアは俯いてぽつりと零したシャールに、僅かに表情を歪めた。場の空気が一気に冷たく重くなる。シャールは自分がそんな風にした空気を引き戻すために、顔を上げて笑う。


「でも、私は聖剣に選ばれたし、エリシア様や聖教会の皆さんと魔王を倒す旅路に参加することにもなりました! ルカント様に連れ出していただいたときとは形こそ違いますけど、きっと村の皆も理解して、また応援してくれますよね!」


シャールは明るくそう言ってみせた。その痛々しいほどに明るい、らしくない声にエリシアは一瞬表情を強く歪めるが、すぐに笑顔を浮かべる。


「そうだね。嗚呼、大丈夫だとも——だって君は、村を旅立った日から徹頭徹尾変わらない。誰のことも裏切ってはいないんだから。少なくとも、ボクはそうだと知っているから」


そんなエリシアの言葉に、シャールは微笑んだ。そんな二人のやりとりを、エリオスは目を細めながら見つめていた。

ちょっと前に、このエピソードのプロットを粗めにではあるのですが完成させました。

結論から言って、また少し長くなりそうです……とりあえず、エピソード3、4と同じくらい(80パート前後)で収まるといいな、と思いつつ……収まらなかったらごめんなさい。またお付き合いください。


さて、毎度のお願いではありますが、拙作をお気に召して頂けた方は評価、ブックマーク、感想、レビュー等よろしくお願いいたします。作者のモチベが爆上がりしますので!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ