Ep.5-9
「ねぇ、エリシア。君の目的……本当にただの修行かい?」
エリオスは壁にもたれかかりながら、エリシアにそう問いかけた。エリシアの方は荷物を纏めながら、きょとんとした表情でエリオスを見つめる。
「ちょっと何を言ってるのか、よく分からないな。というか、ボクこれから着替えたいんだけど? あ、もしかしてエリオス君、それを狙って?」
「茶化さないでよ勇者サマ。私がこの部屋に来た目的は今訊いた通りさ。それ以上でも、それ以下でもない。あと、私は君の身体になんて微塵も興味がない」
「ええ、ひっどぉ……ま、いっか」
そう言いながらエリシアは荷作りを一旦中断して、ベッドの上に腰掛ける。そして、エリオスに隣に座るように促すが、彼がそれを無視したので、苦笑を漏らしながら話し始める。
「——それで? ボクが何か隠し事をしているとでも?」
「違うのかい?」
「ふふ、違うと言っても君は信じないんだろう? なら言葉は無意味さ。でも、一応言っておこう。ボクは誓って嘘はついていないし、今回のディーテ村行きは疑う余地なく今後のシャールちゃんの成長や栄達のためになるものだとボクは確信している」
目を細めながら、エリシアはそう告げた。エリオスはそんな彼女を胡散臭そうに見遣りながら、小さくため息を吐いた。
「そうかい。でも、この道行は彼女にとって随分と辛いものになるんじゃないかと思うけどね。その辺り、君なら把握しているんじゃないの? 一度ディーテ村に行ったんだし」
そんなエリオスの言葉に、エリシアは僅かに意外そうな表情を浮かべた。
「まさか、エリオス君の口からそんな言葉が出て来るなんて思ってなかったよ。何? シャールちゃんのこと、一丁前に心配してるの?」
「まあ、絶望して自殺でもされたら貴重な検体が無駄になるな、という程度にはね。ノーリスクで私が抑え込める聖剣使いはそう多くないから。それで? 私の質問への答えは如何に?」
「そうだな。あえて直接は答えないけど……今回の旅路への注意事項でもって君の問いへの答えに代えさせてもらおうか」
そう言ってエリシアは浮かべた薄ら笑いを消して、エリオスを真っ直ぐ見つめる。そして告げる。
「村に入る時、君とアリアちゃんはボクらとは別口で入って欲しい。村の中でも出来るだけ行動は別々で、ボク達の同行者であると悟られないように」
エリシアの言葉に、エリオスは僅かに表情を歪める。しかし、すぐにその表情には薄ら笑いが浮かんでいた。
「理解した。ふふ、君も大概ひどい師匠だね。勇者サマ」
「——酷くても、辛くても、その果てに成長と進歩があるのなら、それを課すのが師匠ってものさ。何より、彼女は知らないままでいるべきではないと思う。例え、そのために彼女に恨まれたとしても……辛いけどそれが師匠、あるいは先輩の役割ってものさ」
「そうかい。ならば私もこれ以上言うことはない。何より、別に私は彼女の表情が曇るのを懸念するような人間じゃあないからね」
そう言ってエリオスは踵を返してドアへと向かう。そしてドアノブに手をかけた瞬間、彼は立ち止まり振り返る。
「楽しみにしているよエリシア。せいぜい彼女に艱難辛苦を与えて、良い表情をさせてあげておくれ。それはそれで、私の愉悦になるからね」




