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Ep.5-5

「——それで、なんで私まで君たちの修行とやらについて行かなくちゃいけないんだい? しかも、亡国のど田舎にとか……新手の苦行?」


バゲットを何もつけないまま齧りながら、エリオスは腹立たしげにエリシアを睨みつける。その様子は拗ねた子どものようで、エリシアはそんな彼の表情に思わず苦笑を漏らしたら。


「いやいや、君のためを思っての提案だよエリオス君」


「あ? 私のため?」


いよいよ不機嫌そうな態度を言葉にまで出してきたエリオス。そんな彼にエリシアはペースを崩すことなく続ける。


「そう! 君、聖剣について研究してるんだろう? シャールちゃんとアメルタートを検体としてさ。なら、実戦におけるシャールちゃんの戦いぶりやその過程での聖剣と所有者の変化とか、色々気にならないかな? かな?」


「……なるほどね、そう言うこと。それならまあ一理あるか」


エリオスは少しだけ機嫌を直して、小さく鼻を鳴らした。エリシアはそんな彼に満足げな笑みを向けながら、揶揄うような声で尋ねる。


「それで、エリオス君。結論を聞いても?」


「は——結論なんて、アリアが温泉に陥落した時点で出ているよ。彼女は私のご主人様。なら、彼女の願いは何であれ叶える。だから、私に行かないなんて選択肢は無い」


「別に君だけ残っててもいいんだよ? そしたら3人で女子会と洒落込むだけだから」


「女子会なんて概念あったんだ——とはいえ、それはもっとあり得ない。彼女がこの館に残るというのならともかく、そうでもないのに私が彼女から遠く離れるなんてことは絶対にありえない」


ゆるゆると首を横に振るエリオスに、エリシアはわざとらしく唇を尖らせる。


「ええー! エリオス君過保護すぎなーい? もしかして束縛したい系の人?」


「——なんとでも言えばいいよ。でも、自分の命より大切な存在を自分の手の届かないところへ連れて行かれたくないっていうのは、当たり前の欲求じゃない?」


事もなさげにエリオスはそう口にした。その瞬間、その場にいた女子三人が硬直する。エリオスがバターナイフで瓶からジャムを掬い取るかちゃかちゃとした音だけが響いていた。


「う、うひゃあ……エリオス君ってばだいたーん……」


呆れとも、感心ともつかないふわついた声でエリシアがそう言ったが、エリオスは彼女の言葉の意味もわからずに、パンを頬張りながら首を傾げる。

「命より大切な」——こんな表現を現実で、それも誰かに対して使っているのを見たのは、生まれて初めてで、しかもそれをよりにもよってエリオスが言ったという事実に、シャールは驚愕しつつも、共感性的な羞恥心で顔を真っ赤にした。


「あ、アンタねぇぇぇ!」


「うわ! ちょ、食事中に何するのさアリア! ほら、ポタージュ溢れちゃうよ!?」


シャールの比では無いほどに、赤いリンゴのように赤面し、目の端には涙すら滲ませながらアリアはエリオスの胸ぐらを掴む。

彼女の叫びの意味を理解できていないエリオスは両手を上げながら心配そうにテーブルの上の自分の朝食の無事を確認する。


「知るかぁ! アンタは……アンタは少し自分の言葉の威力を理解しなさぁいッ!」


エリシアとシャールが見つめる中、エリオスの胸ぐらを掴みながらアリアは高く張り裂けそうな声でそう叫んだ。

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